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第65話
「ごめん……。校舎の北にある裏庭にいたんだ……」
秋斗は形のいい眉をひそめた。
「なんで、そんなところにいたんだよ?」
「……雨が降るのを待ってたんだよ」
「はあ? いったいなんで?」
「なんでって……おまじないを……」
秋斗に次から次へと質問されて、友悟はついそう言ってしまった。
「おまじない? なに言ってるんだ? おまえ」
秋斗にきょとんとした顔をされて、友悟はちょっとムカッときた。
いったい誰のために僕ががんばったと思ってるんだよっ。
「秋斗が言ったんだろ。おまじない……空から落ちてくる雨の最初の一滴が、鼻のてっぺんに当たれば恋が叶う……っていうやつ」
「は? オレそんなこと言ったっけ?」
秋斗のこの返答に、今度はかなりムカムカッと腹が立った。
彼にしてみれば記憶の片隅にも残らないようなことだったのかもしれないが、友悟はいちるの希望のような気持ちでおまじないに挑戦してきたのだ。
「言ったよっ」
噛みつくような口調で言葉を返した。
こんなふうに秋斗に食ってかかるのは、八つ当たりだと分かっていたが、どうにも気持ちがおさまらなかった。
「……白兎にも好きな子がいるんだ?」
「え?」
「だってそんなおまじないを試してたってことは、思いを叶えたい相手がいるからだろ?」
そんなふうに立て続けに聞いてきた秋斗は、今まで見たことがない剣呑な表情をしていた。
「そ、そりゃ僕にだって好きな人くらいいるよ」
……目の前に。
そう打ち明けたら、秋斗はいったいどんな顔をするだろう……。
友悟の中で思いを伝えたい衝動が湧き上がった。
それはまるで強迫観念のように強く心に迫って来て。唇が勝手に動く。
「僕は――」
だが、続きの言葉はスマートホンの着信メロディによって切断されてしまった。
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