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第71話
そういえば好きだとはっきり気づいた当初は、自分の気持ちを持て余したな。
住所録を片手にスマートホンを駆使して、白兎の家を探し回ったこともあったっけ。
そう、初めて友悟を家まで送ることになったとき、彼は秋斗が先に歩いていくのを見て不思議がった。
あのとき秋斗は、地理が得意だからと理由付けしたが、それはまったくの嘘で。
本当は秋斗が友悟の家へ行ったのは、あの日が初めてではない。
それ以前に何時間もかけて彼の家を探し当てていたのだ。友悟の家までの道のりはかなりややこしく何度も迷いながら。
ようやくたどり着いたときには、電気が煌々とともっている窓を見上げながら、『白兎の部屋はあそこだろうか?』などと想像を巡らせたりした。
……なんか、こうやって考えてみると、オレってストーカーみたいだな。
少々自嘲めいた笑みを浮かべていると、友悟が小さく呻き、薄っすらと瞳を開けた。
「……ん……」
「白兎? 大丈夫か?」
慌てて顔をのぞき込んだが、友悟の意識はまだ半分眠りの中にいる様子で、
「喉……渇いた……」
掠れた声で呟くと、再び眠りの底へ落ちて行こうとする。
「白兎、ちょっと待て」
秋斗は残っていたミネラルウォーターを口に含むと、ゆっくりと友悟の唇に自分の唇を重ねた。
そして薄く開かれた唇の中にミネラルウォーターを注ぎ込む。
「……ん」
友悟は小さく喉を鳴らして、口移しであたえられた水を飲んだ。
「……ありがと……」
焦点が定まらない瞳を薄っすらと開き、寝ぼけ声で礼の言葉を言うと、今度こそ深い眠りの世界へと戻っていった。
まだまだ幼さが残る友悟の面立ち。
けれども、ときにたまらない色香を醸し出すことを秋斗は知っている。
今も、水で濡れた唇が薄く開かれているさまは、まるで誘っているかのようだ。
白兎に気持ちを伝えよう……。
秋斗は決心した。
さもないと、いつかは彼に襲い掛かってしまいそうだった。
力ずくで無理やりに、という形になってしまうのだけは避けたい。
だが、秋斗の理性はもう風前の灯と言ってもいい状態で、いつぷっつり切れてしまうか分からなかった。
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