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第73話
「……ん……」
友悟が目覚めると、とてつもない端整な顔がドアップで瞳に飛び込んできた。
「……!?」
心臓が止まるかと思うくらいびっくりした。いや、もしかしたら一瞬止まったかもしれない。
「あ、秋斗か……」
完璧すぎる美貌というものは、寝起きには刺激が強すぎる。
トクトク高鳴る胸を押さえつつ友悟は思う。
徐々に鼓動が正常に戻って来て、それと同時に昨日の記憶がよみがえってきた。
昨日は本当にいろいろなことがあり過ぎた一日だった。
秋斗が美菜に呼び出され、そのまま二時間時近くも二人で消えて。
友悟がおまじないに成功して、束の間の達成感ののちの虚しさ。
雨の中、増月に追いかけられて、走って逃げて逃げて……秋斗の腕に受け止められて。
そして、風邪を引いちゃった僕に、秋斗が付き添いを申し出てくれたんだよね。父さんも母さんも留守にするから。
んで、いっしょに晩ごはんを食べて。
秋斗がお風呂に入っているあいだに眠っちゃったんだな、僕。
友悟は改めて秋斗を見た。
毛布を肩にかけ、カーペットに座ったまま、右腕を枕にしてベッドに顔を預けて眠っている。
部屋はすっかり明るくなっていて、小鳥たちのさえずりが聞こえた。
「一晩中、傍についててくれたんだ、秋斗」
秋斗のやさしさが、友悟の胸に暖かな幸福感をあたえてくれる。
……そう言えば、薄っすらと記憶に残っている。何度となく秋斗が氷枕を取り替えてくれたこと。
友悟は大好きは人の寝顔にうっとりと見惚れながら、記憶を呼び覚ましていく。
そして思い出した。
秋斗の夢を見たことを。とても幸せな夢。
彼にキスをされる夢だった。
……あんな夢を見ちゃったのは、前に増月に気持ち悪いことをされたときに、保健室で秋斗がキスしてくれたことが心に刻まれているからだろうな……。
そんなことを考えながら、秋斗の形のいい唇を見つめる。
柔らかくて少しひんやりとした彼の唇が自分のそれに触れたときの、甘くしびれるような心地よさは、いつまでも忘れられないだろう。
友悟があまりにも秋斗を凝視していたので、視線を感じたのか、彼が小さく身じろぎをして目を覚ました。
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