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第74話

「……ん……、あ、いけね……寝ちゃったか……?」  軽く頭を振りながら呟く。  顔を上げる秋斗と彼を見つめていた友悟の目がカチッと合う。 「あ、白兎。起きてたんだ。おはよ。具合は?」 「お、おはよ。も、もー、すっかり大丈夫みたい。ありがとう」 「でもなんか顔赤いけど……。まだ熱高いんじゃないか?」  秋斗が心配げに眉をひそめる。 「そ、そんなことないよ。もう平気だって」  ……顔が赤いのは秋斗のことを見てたから。  秋斗にキスをされる、すごくリアルな夢を見てたから……。  でも本当のことは言えない。 「とにかく熱はかってみろよ」  秋斗が体温計を渡してくれた。  素直に受け取り脇の下にはさむ。 「食欲はある? 朝ごはんはどうする? 昨夜のおかゆがまだ少し残ってはいるけど」 「あー、ううん。もうおかゆはいらない。おなか空いたから普通に食パン食べたい」 「ほんとに大丈夫か?」  尚も心配顔で聞いてくる秋斗に、胸がキュンとなる。 「うん。ほんっと、すごくおなか空いたし、食欲が出てきたら、もう全然大丈夫だから」  そんな会話を交わしているうちに、体温計がピピッと鳴った。 「三十六度七分か。なんとか平熱まで下がったな」  秋斗はホッと息を吐きだし、安堵の表情を浮かべる。 「このまま夜になっても上がらないといいんだけど」 「平気だってば。それよりおなか空いたー」  友悟が起き上がろうとすると止められた。 「今日はもう一日寝てな。朝ごはんはオレが用意して、ここに持ってくるから」 「えー? もう大丈夫だって」 「だめ。……冷蔵庫の卵、使っていいか? 目玉焼き作るから」 「それはもちろんいいけど……秋斗、目玉焼き作れるのー?」  友悟が聞くと、秋斗はいかにも心外だという顔をして、 「目玉焼きくらいは作れるよ。スクランブルエッグはまだ無理だけどな。大丈夫、卵を割るのは上手いから、殻が入ることは絶対にないし」  自信満々に言ってのけた。

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