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第78話
「で、でも、じゃ、ど、どうして二時間も戻ってこなかったんだよ!?」
思わず声を張り上げてしまう友悟。
だが、秋斗もまた声を張り上げた。
「泣かれたんだよ! 加納に。もうワンワン号泣された。それでもう学校にはいたくない、家に帰りたいって言われて、せめて送ってほしいって……泣きじゃくられて」
秋斗は溜息混じりに続ける。
「参ったよ……。駅までの道でも電車の中でも、彼女ボロボロ涙流して泣き続けるんだぜ? ああいうシチュエーションでは、周りはほとんど、一方的に男が悪いって反応なんだよ。もう針のむしろ状態っていうか、いたたまれなかった。オレのほうこそ泣きたくなったよ」
そのときのことを思い出したのか、秋斗は綺麗な眉をひそめて小さくかぶりを振った。
「自宅まで送ってほしいっていうのを何とか断って、彼女の最寄りの駅まで行って、それから引き返してきたんだよ」
「…………」
それがあのときの真実なら、秋斗は加納さんとはつき合ったりしないということなんだろうか?
気持ちがジェットコースターみたいに激しく上がったり下がったりを繰り返しすぎて、友悟の頭は、スマートホンでいえばデータ量オーバーだった。ものすごく動きが遅くなってしまっている。
無言で秋斗を見つめていると、彼が居住まいを正して友悟に告げた。
「分かってくれた? オレが好きなのは、ずっと友悟、おまえだけだよ。……おまえに、おまじないに願掛けする相手がいるのを聞かされたとき、オレすごく動揺したけど……」
「え? ……あ……」
「でもまだその女の子には告白してないんだよな? 友悟、オレ、絶対におまえのこと大切にするから……だから、オレとつき合って欲しい」
「秋斗……」
これは夢?
秋斗が僕のこと好きだなんて。
つき合ってほしいだなんて……。
秋斗も僕と同じ思いを抱いてくれていた?
そんなあまりにも願い通りのことがありえるのだろうか?
友悟は秋斗の告白がにわかには信じられなかった。
だから黙り込んだまま、秋斗の顔を見つめることしかできないでいた。
友悟のそんな沈黙を秋斗は誤解したようで、
「……やっぱりその女の子じゃなきゃだめか? 男同士なんて、気持ち悪い?」
完全に意気消沈した声で呟く。
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