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第2話
一応、坊ちゃんの父親に事の次第を報告しておいた。雇われの身はつらい。父親は、よくやったと褒めてくれた。坊ちゃんが私に、より一層の執着を抱けば、この国は安泰だとそう話す。そして、これからもよろしく頼むと手を握られた。ついでに特別手当まで手配して頂いた。
もしかしたらじゃなくて絶対に、私は坊ちゃんよりもお金持ちだ。
坊ちゃんはあれだけのことを為しておきながら、報酬をもらってはいない。そういうものを思いつきもしないのか知らされていないのか、ただ研究に没頭している。
部屋に戻ると、坊ちゃんは小さく肩を弾ませた。あの日以来、あからさまに意識をして頂いているようだ。
嬉しい。
わざと足音を大きくたてながら、坊ちゃんの方に近づく。坊ちゃんは振り向きこそしないが、その手は完全に止まっていた。
面白いのでそのまま何も言わず、じっと様子を観察してみる。
普段なら私がいようがいまいがただただ仕事を続けるだけの坊ちゃんが、こうして集中を乱している様は愉快だった。
「ど、どうすればいいんだ」
「はい?」
「僕は、どうしたらいいんだ? 僕は、」
自問自答なのか、私に尋ねているのかよくわからない。次の言葉を腰を曲げ、待機していると、突然振り向いた坊ちゃんと目が合った。
深い深い海の底のような暗い青い色の瞳が、今は薄く涙の膜で覆われ、キラキラと輝いている。
「僕は、スミに近づかれると心臓が痛いくらいに打つ。また、あのあんなことをされるのではないかと思うと、怖い。怖いけれど、またされたいとも思ってしまう。僕は、どうすればいい? これは『恋』なんだろうか」
「はい」
案の定、これまで私としか接触せずに過ごしてきた坊ちゃんは、少しつついただけで、その関係を『恋』を錯覚してくれたようだった。
あとはその隙に全力でつけこめばいい。
「そうです。坊ちゃんは私に『恋』をしているのです。もっと触れてほしいのであれば喜んで望みを叶えましょう」
「い、いや、そういうわけではないんだ。あの、唇をくっつけるの、あれだけでいいんだ。あれは、好きだった」
「わかりました」
「んっ」
希望通り、坊ちゃんの後ろ頭を抱きこみ唇を寄せる。あれだけ、など言っていたが、それで我慢ができるわけがない。食らいつくようにして、坊ちゃんの口内も荒らし回る。椅子に座ったままの坊ちゃんは手だけでどうにか抵抗をしようとしているようだったが、どれも無視できる程度のものだった。
最後に上顎のあたりを舐め、解放する。坊ちゃんはすっかり蕩けた目をしていた。もじもじと太腿を擦り合わせている。
「そこ、どうしましたか」
「あ、ぅ」
手を肉付きの薄い太腿の間へ潜り込ませる。何度か自慰を教えることはしたが、ろくに自分でしているようでもなかった。衣服の上から形を確認するように揉み込めば、ゆるく芯を持ち始めていることに気がついた。
「どうしましたか、坊ちゃん」
「わからな、わからない。スミ、スミ、」
「はい」
「どうしたらいいのかわからないよ。スミ、苦しい」
「坊ちゃんは口の中をいじられて、気持ちよくなってしまったんですね。ほら、前にも教えたでしょう。服を脱いで、自分で握って」
「ひ、う」
言われたとおりに動く坊ちゃんの姿は本当に愛らしい。恐る恐る自分のものを握り、ぎこちなく擦り始める。気持ちよすぎるせいか、羞恥のせいか、涙を零しながら、私に見られながら自慰を続ける。
「スミ、やって、スミが」
「いけません。いい加減、自分でできるようにならないと」
「苦しい、スミ。全然よくならないよ」
「まったく、仕方ありませんね」
待ってましたという表情がでないように気をつけながら、膝をつき、坊ちゃんの手の上から自分の手を被せる。
「待って」と聞こえたような聞こえなかったような。
もはや坊ちゃんの手は全く動いていないような状態だったが、それを無理矢理上下に動かし、時折先の方へ刺激を送る。
「あ、あ、あ」、坊ちゃんは私の肩に顔を寄せ、感じ入っているようだ。
「出る。出る、スミ」
「いいですよ、坊ちゃん」
「スミ、おこ、怒らない? スミ、前、怒った。服、汚したって」
「ああ」
あれはただの思いつきというか遊びのつもりで。まさかあそこまで坊ちゃんが動揺するなんて思っていなかったものだから。
けれど、あのとき確信したんだ。これは押したらいけるぞと。
「っ、」
達したようだ。手の中に熱いものが溢れる。やはりしばらく出していなかったのだろう。それはどろりと濃かった。
耳を、荒い息が何度も掠める。私は、何度も押し倒したくなる衝動を堪えた。
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