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雨音の家 4

大学は休み中ということだった。広いキャンパスの中を指定された事務室に向かった。 応接室には、広報も担当しているという事務方の男性と自殺した研究者の倉元を知っているという准教授が出てきた。 「ご照会の研究室は、今はありません」と広報担当は言った。「研究室のトップだった岩下教授は2年前に退官されて、今は、別な私立大学の教授になっています。いや、今は、そこも辞められたんだったかな」と彼は言った。 「岩下教授の研究室では、許可なく危険な人体実験をしていたという噂があるようですが、本当でしょうか?」と宮田が単刀直入に聞いた。 広報担当は苦笑した。 「そういえば、ちょっと前にもそのようなお問い合わせをいただきました。危険な人体実験なんて、そんなことはありえません。ジェンナーや華岡青洲は大昔の人ですからね。現代の大学で、秘密の人体実験なんてできっこないでしょうね。大学では、すべての研究について金銭や研究者の動きは透明化しています。通常と違うことがあれば、すぐにわかりますよ。不正なことがあれば、噂どころかすぐにネットに書かれてしまいます。それに、岩下教授は、許可を得ようが得まいが危険な人体実験をするような方ではないです。人格者で、みなさんに慕われていましたよ。大学の倫理委員にもなっておられました」 「自殺された倉元さんのことはよくご存知でしたか?」と宮田は准教授の方に聞いた。「ご友人ですか?」 「タバコ仲間でした」と准教授は答えた。「ちょっと前に自殺したと聞いて驚きましたよ」 「岩下教授の研究室では、何を研究していたのでしょうか?」と広瀬は聞いた。 「資料をもってきます」と言って広報担当は席をはずした。 広報担当者がいなくなるのを待って、准教授が宮田と広瀬に声をおさえて聞いてきた。「もう一人、自殺したそうですね」

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