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雨音の家 6
「岩下教授のところにいくか」と運転席に乗り込みながら宮田は言った。「研究室のメンバーの追跡調査もして」と彼は言う。「やることが山のようにあるな」と自分に呟き、車を発進させた。
広瀬は、助手席で島根の刑事が持ってきた歯の金属の写真をみた。
毎日、繰り返し見ている写真だ。黒い小さな金属で、わずかにこすれたような跡がある。これは何か別なものが付いていたのを切り離した断面だと思われる、と島根の刑事は説明していた。その切り離された別なモノは遺体にはなく、何かはわからないままだ。
だから、残された金属は歯の詰め物のようにも見える。
広報担当者が言ったように、食品の混入物で間違って噛んで歯に食い込んでしまっただけのようにも見える。
だが、同時に自分の歯茎の中にある金属片のことを思い出す。
まさか20年以上前から入っている広瀬の歯茎の物質と、数年前の研究が同じとは思えないが、それにしても、歯に何かを埋め込む実験というのはよくされていることなのだろうか。
広報担当者が見せてくれた書類を見直してみる。記憶の研究だと言っていた。
「研究室のメンバーの一覧リストは俺がつくるよ」と広瀬はブツブツ言いながら運転している宮田に告げた。「この研究のことも整理しよう」
「もし、研究室のメンバーが、もう一人死んでたらどうする?そうしたら偶然の自殺にはならないよな。かなり面倒な事件ってことになるのかな」と宮田は心配そうに言った。
広瀬は書類を見直した。心配するよりも事実を整理することが先だ。自分のタブレット端末でデータを整え、関連性を分析してみたら、なにか気づくかもしれない。
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