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雨音の家 7

大学を訪問した日の夜、広瀬は、警察庁の「おじさんたち」との定例の会食のためホテルにきていた。 「おじさんたち」というのは亡くなった広瀬の父親の元同僚で、広瀬のことを気にかけている人たちだ。 広瀬が東京の大学に進学して以来、警視庁に勤めるようになった後も定期的に夕食会が開かれている。彼らは広瀬に、勉強のこと、進路のことなど父が生きていたらしていただろうアドバイスをするのだ。 その日の場所は、「おじさんたち」の一人が予約した都内の山の手にある老舗のホテルのレストランだ。「おじさんたち」は持ち回りで会場をとっている。広瀬の顔を見るという口実で集まってはいるが、話の内容は昔話か永田町や霞が関界隈の動向についての情報交換だ。 広瀬は、指定された時間より少し早めについたので、ロビー脇のティールームで、同じく早めについた「おじさん」の一人、橋詰とお茶をのんでいた。 橋詰は、広瀬の父親の学生時代からの親友で、広瀬の両親が生きていた頃、家によくやってきていた。 彼は、広瀬のことを生まれたときからよく知っている。広瀬の両親が殺された後、伯父夫婦に引き取られた広瀬に何度も会いに来ていた。伯父夫婦や他の親戚が広瀬を大事にしていなければすぐに自分で引き取るつもりで訪ねていたのだと、大人になった後に教えられた。 橋詰と広瀬は黙ってお茶を飲んでいた。 自分が世間話をするのが苦手だということを橋詰はよく知っているので、広瀬は気楽だった。のんびりティールームの中の客や飾ってある調度品を見たり、ロビーを歩く人を見たりしていた。 ふと、目の端に、見知った人影が入ってきて、はっとなった。 長身の体格のいい男。 最初はよく似た別人だと思った。 だが、見間違うはずがない。東城だった。 しかも、女性連れで、彼は女の腰に腕を回している。女性の方は彼を上目遣いに見て、意味ありげな表情を浮かべている。 長いこげ茶の髪を大きくカールさせているかなりな美人だ。東城は笑顔で彼女の耳元に何か話しかけている。冗談を言ったのだろう。女性が楽しそうに笑いだした。 それから、東城はホテルのフロントに行き、自然な風情でチェックインして鍵を受け取っていた。女と手をつないでエレベーターに向かっていくのまで見えた。 どこからどうみても、恋人同士がホテルにこれから泊まるという様子だった。 「彰也、どうかしたのか?」と声をかけられた。 見ると橋詰が立ち上がっている。「そろそろいい時間だから行こう」と言われる。 広瀬も立ち上がった。 「誰か、知り合いでもいたのかな?」と橋詰はフロントの方を見ている。 広瀬はそちらの方は見ないで答えた。「いえ、誰も」 そして、橋詰と一緒に予約の入っているホテルの最上階のレストランにむかった。

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