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雨音の家 8
「おじさんたち」との会食のほとんどの時間、広瀬は上の空だった。
自分がホテルのロビーでみた光景を頭の中で繰り返し、検証してしまっていた。
もともと無口だから、「おじさんたち」に話しかけられても生返事なのはとがめられなかったが、食欲がないのについてはいぶかしがられた。
仕事か私生活で難しいことがあるのか、必要があれば相談にのるとみんなが親切に言ってくれた。
会食の後、広瀬は、迷いながらも東城のマンションに帰った。
東城からは連絡がないので彼が自分より先に戻ってはいないことは知っていた。
ベッドの中でなかなか眠ることができなかった。
あの女性は誰だったのだろうという考えが頭の中から離れない。遠目からでも目立つきれいな女だった。考えても仕方ないと何度も寝返りをうちながら、眠ろうと努力した。
結局、東城が帰ってきたのは明け方だった。
彼は寝室に入ってきてわずかな時間ベッドに横になっていた。広瀬が起きていたことには気づかなかったようだ。
そして、広瀬よりも早く起き、顔を合わせることなく職場にむかっていった。
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