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雨音の家 9
東城の様子が変だと思ったのは、その夜からだった。
もしかすると、もっと前から変わっていて、広瀬が気づいたのがホテルの東城を見た後に過ぎないのかもしれない。
そもそも最近忙しそうで顔を合わせる時間が少ないのだが、会っても話しかけてくる言葉も前より少ない気がする。
だけど、それは気のせいということもあるのでは、と広瀬は思う。
あの夜、ホテルにチェックインしてはいたが、夜明けには帰ってきていた。女性と一晩過ごすなら、朝、ホテルからそのまま本庁に直接行っていただろう。出張はいつものことで、マンションに帰ってくる必要はないはずなのだ。
だいたい、東城が広瀬に遠慮する必要もないのだ。
誰か、他の人を好きになったのなら、広瀬との関係はお終いということだ。二人の間には何の約束もないし、これからも何か約束がされることはない。
だから、東城が浮気をするなんていうこと自体ありえないのだ、と広瀬は自分に言ってみる。
浮気と言うのは確かな相手がいて、それ以外の人と寝たりすることだ。
東城に恋人同士のように付き合う相手ができたのだとしたら、それは、浮気ではなく、気持ちが変化したということで、彼は自分にそのことを告げるはずだ。
告げないのであれば、それは、あの時見たことが広瀬の見間違いか、誤解だからだ。
そんなことを考えて納得させようとした。
でも、なぜ、ホテルで女と一緒にチェックインしていたのだろうか、とすぐに思う。
あの夜、帰って来た彼にすぐに聞いてみればよかった。ホテルで見たことを告げればよかったのだ。
だが、時間がたてばたつほど、聞きづらくなる。
悩むのは嫌だ。考えたくない。彼のことも、ホテルで見たことも。
そもそも、こんなふうにうじうじするのは性に合わない。
彼といることがためらわれ自然と帰るのが遅くなり、東城と接する時間も短くなる。彼との会話も減り、ますます彼が何を考えているのかわからなくなる。
自分のアパートに帰る日も増えた。
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