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雨音の家 10

そんなことがあっても、仕事は続いている。 自殺した研究者のことを調べるために、広瀬と宮田は研究室の教授やメンバーの行方を整理していた。 岩下教授は、既に私大を辞めていた。私大に聞いたが理由は不明だった。岩下教授から辞めたいという話があったということだった。 自宅を訪ねたが間が悪いせいか、誰もいなかった。近所の人に聞いたが、最近姿をみないということだ。 教授の妻は数年前に他界している。調べたところ、夫婦に子どもはいたが、ずいぶん前、子どもが小学生の時に亡くなっていた。詳しいことはわからないが事故だったらしい。 岩下教授の身近には家族といえる人はいないようだった。 「岩下教授も行方不明だったらどうする?」と返事のないドアを見て宮田は言った。「無理やり入った方がいいかな。中で自殺してるかも」 広瀬は、玄関のベルを再度鳴らしてみた。家の周りは一周してみたが、カーテンがおろされ灯りはついていないので中の様子はわからないままだ。 鍵穴やドアの隙間に鼻を近づけて匂いを嗅いでみる。「死体の匂いは今のとことしない」と広瀬は言った。 「明日も来てみよう。単に、どっか行ってるだけかもしれないし」と宮田は言った。 「身元不明の遺体のデータべースで、岩下教授らしい人がいるかどうかも確認する」と広瀬は言った。 「もし、岩下教授も自殺してたら、噂になってる3人目の被験者は岩下教授ってことかな」と宮田は言った。「単純に、旅行にでも行っててくれればいいな」と希望を述べた。 検索したが、身元不明者のデータベースには岩下教授らしい人物はいなかった。宮田はほっとしていた。そして、明日もう一度行ってみることになっている。 広瀬は、その日の夜は、気が進まなかったが、東城のマンションに帰った。 東城から何度かメールが来ていたのだ。今日は、それほど遅くはならないという普段通りの自分の予定を告げる連絡だ。 広瀬が自分のところに来ることを前提にしたメッセージだった。無視もしづらかったし、自分が何かを意識しているとも思いたくなかった。

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