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雨音の家 17

「おい」東城の表情が変わった。「聞き捨てならないな」広瀬に近づいてきて彼に触ろうとしてきた。 広瀬は彼の伸ばされた手を無意識に避けた。それに気づき東城は手をとめた。「俺が、いつ、他の女と遊んだよ」押し殺した怒りの声だった。「言ってみろよ。いつ、どこで?」 広瀬は黙っていた。 「お前と付き合いだしてから、他と寝たことは一回もない。なにを根拠に、そんな話してるんだよ、お前は」 長い沈黙がながれた。「こういうときはだんまりなんだな」と東城は言った。「いいたいことは全部言ったのかよ。俺が女と寝たってお前は思ってる。それだけ、それ以上はなにもないのか?」 東城はため息をつく。 「信頼感とか、ねえの?俺に対しての。お前、ずっとそう思って俺とつきあってたのか?確かに前はずっと遊び歩いてたから、ろくなことはしてないけど、でも、お前を裏切るようなことは一切してない」怒っているだけではなくさびしそうな感じだった。「なあ、黙ってないで、なんか言ってみろよ。でないと、ひどくまずいことしそうだ、お前に」時々東城は自分を抑えることができない。それは自覚しているのだ。「そんな無表情で黙ってて、他に言うことないのかよ」 「なにも」と広瀬は答えた。「俺がなにか言ったからって、変わるとは思えない」 「信用できない?」 広瀬はうなずいた。 「なんで」東城は首を横に振る。「どうしたら信用してもらえるんだ?」 「俺が信用するとかしないとかじゃないから」 「じゃあ、どうしろっていうんだ。お前は俺が浮気したって思ってる。でも、それは全くの事実じゃない。だけどお前は俺の言うことは信じない。お前の信頼を得るなんて到底無理だろ、今の話の流れじゃ」 「そうですね」 「そうですね、って、お前」東城は半ばあきれている。「お前、それでいいのかよ。ほぼ毎日、俺の家に来て、一緒に暮らしてて、恋人じゃないのか。俺は、お前のことずっと恋人だって思って大事にしてる。少なくとも大事にしたいって思ってる。お前が俺を裏切るようなことしてたら、そんなふうに白々とそうですねとは言わないぞ、俺は」 広瀬には答える言葉がなかった。 東城は、広瀬の返事を待っていた。 彼はまた考えているのだ。東城は、基本的に人間関係については楽観的で、こじれた関係でも必ず打開できると思っているのだ。それに、解決のためにならどんなこともするだろう。頭も下げるし、問題を先延ばしもする。問題がなかったふりも、相手を許すことも。 長い時間がたった気がした。 沈黙は広瀬の得意分野のはずだが、今日は居心地が悪かった。 東城は怒りながらも、何かを考え、広瀬を見ている。以前のように感情にまかせて広瀬に乱暴なことをしようとしなくなった。

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