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雨音の家 20
東城は優しい顔をしてうなずく。
「怒らないんですか?」と広瀬は聞いた。「その、信用されないって、言われて」
「うーん。腹立つか立たないかって聞かれたら、そりゃあ、腹立つけど」と彼は答えた。
ゆっくりと自分に言うように、言葉を選びながら言う。
「でも、なんて言うのか、そうだな。信じられないっていうのは、どうしようもできないだろ。俺が怒っても変わらないし。信じられないものは信じられないんだから。それはそうだよな。ドラマみたいにさ、好きだから信じられるなんて、愛してるから信じるなんて、そんなの無理だ。そんな単純なものじゃないよな。俺なんて、お前が誰かと二人きりでいるだけでイラッとする時あるし」
彼は続ける。「それに、信じられないって怒るってことは、俺のこと信じたいとか嫉妬してるとかそういうことだろ。それは、まあ、うれしいっちゃうれしいよ。広瀬が、俺のことどう思ってるのか不安な時があるから」彼はそう言った。
「だから、お互いに信じられるかどうかとか、心配だとか、そういうことについては、ある程度は、生活のスパイスみたいなものかも。深刻にならなければいいさ。それに、時間をかければそのうちいいアイデアが浮かぶよ。時間はいくらでもある」
彼の手が肩にふれ、それから顔を寄せられてキスされそうになった。広瀬はそれを避けた。
「なんで?」と東城はむっとした顔をした。
「今日は、ちょっと」と広瀬は答えた。
頭の中に強い怒りや嫉妬といった普段ない感情が一気に通り過ぎたので、とても疲れた。
何か食べてゆっくりしたい。それから風呂にはいって寝たい。
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