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雨音の家 24

広瀬が眠りについた後、東城は、部屋の薄明かりの中彼の寝顔を見た。 あんなふうに怒るなんて初めてでびっくりした。今までも広瀬が怒ることはあったが、あんなに感情があふれさせて、しかもクッションで殴ってくるなんて。 ずいぶん前、大学生のころ、軽いノリで複数の女の子と並行して遊んでいたら、怒った一人から尖った金属を投げられたことがある。 かなり怖かったあの経験からしたら、嫉妬してクッション投げて出て行こうとするなんて可愛すぎるけど、と東城は思った。 それに、あの後、彼が触れたら、最初のうちは身をよじって避けていたが、ベルトを緩めてファスナーをおろし下半身に滑り込ませた自分の手を、彼はすぐに濡らしていた。自分のシャツにしがみついた手の力が、耳の奥に届く喘ぎ声が、まだ、東城の感触の中にある。 彼の身体は、頭とは別で東城の手にすっかり慣れてしまっているのだ。 それに、自分は彼の弱いところは全部覚えた。肢体に手をはわせれば彼は声をあげてくれる。さらに自分を欲しがったりもする。自分の欲望を恥ずかしがったり、隠したりしないように、長い時間をかけて身体を仕込んできたのだ。 広瀬は自分の好み通りの身体になった。東城は今でも彼に夢中だ。こんなに求めているのに、離れられるわけがない。 だけど、今回の件はいろいろ考えさせられた。 広瀬が事情もろくに話さずに荷物をまとめて出て行こうとするなんて、考えもしていなかった。 だいたい、ホテルで自分が女といるのを見た後、どうして黙っていたんだろうか。 今度同じようなことがあって、防げなかったら、取り返しがつかない。 もし、理由もわからずに彼が出て行ったら、自分は彼を探し出して、監禁し、手足の自由を奪ってどこにも出ていけないように、誰ともあえないようにしてしまうだろう。 広瀬に関しては自分は自制心がないというのは自覚している。さっきだって、あんなに広瀬が傷ついた顔をせず、いつものすました無表情で出て行こうとしたら、自分は、彼をウォークインクローゼットの中で引きずり倒して、縛りつけて犯していただろう。 自分から離れてアパートに帰るなんてできないようにしないと、と東城は思った。お互いのためにも対策は必要だ。 そうだ。それに、自分のことを信じられないと言った彼に何か証を示さなければ。どんなものも彼は欲しがらないが、それでも自分の気持ちを証明する何かは必要だ。東城は考えを巡らせる。 考えながら、達史のことを思い出した。達史にはこちらから連絡をして広瀬には金輪際手出しするなと言わなければ、と思った。 欲しいものを何をしてでも手に入れたがるのは東城の家の特徴だ。 だが、もちろん、広瀬に手をださせるつもりはなかった。

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