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雨音の家 29
家は外から想像するよりもさらに大きく、カーテンをあけると明るかった。
木々や緑あふれる庭がある家は、元の持ち主が大事にしていた様子が伝わり、広瀬には好感がもてた。東城もそう思っているらしいのはわかる。
「住むにはリフォームが必要だよな」と言う。
全体的に古びてしまっているのは否めない。
「自分の好きにできるのはいいけど」そして、広瀬にまた聞いてくる。「どうだ?ここ、住めそうか?」
「住むんですか?」
「ああ。もし、お前がOKなら。一緒にすまないか?」
気軽な調子だったが、思っても見ない言葉だった。
「お前のアパート、ほとんど使ってないだろう。あれ、もう、引き上げてここで一緒に住むのはどうだ?」
確かに、東城の言うとおりではあった。
生活の大半は東城のマンションになっている。アパートには時々気が向いたときに帰るくらいだ。
「いい機会だからな」と東城は言った。「ここはあっちの本館とは距離もあるし、木もあるからほとんど誰も来ない。気になるなら入って来れないようにちょっとしたフェンス作ってもいいしな」
「お金かかりますね」と広瀬が言った。
「それだよな。市朋会にリフォーム代だせとはさすがに言いにくいから、やりくりするとして」
「家賃払いましょうか」と広瀬は言った。
「お前が俺に?」東城は面白そうに笑った。「まあ、家賃補助の申請を急にやめたらなにか言われそうだから、そうしておくのもいいけどな」そして、あたりをみまわして、最後に広瀬をまた見た。「じゃあ、決まりだな」そういう東城の顔がうれしそうだった。
何気ない口調で言ってはいたが、広瀬が自分の申し出に対してどう返事するのか、内心かなり心配していたのだろう。ほっとした様子でもあった。
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