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雨音の家 31

引越しの前日、荷物を片付けている広瀬のアパートに東城もきた。 彼がこのアパートに来るのはほんとうに久しぶりだった。 荷造りを手伝いながら東城は自分のものを発見して、ここにあったんだ、と言っていた。以前、彼が入り浸っていた時には、自分の生活用品を持ち込んできていたから、その名残がそこここにあるのだ。 探すのをあきらめていたものもあったようだった。東城はなくしものを見つけ、うれしそうに荷物に入れていた。 家具の大半は既に処分していて、家に残っているものは今度の家に持っていくものだった。 荷物は広瀬が思っていたよりは多かったが、東城の車に容易につめるものだった。 最後の荷物をもって金属でできた外階段を降りると、足音が響いた。 最初の頃、東城が必ずカンカンと音を立てて駆け上がってきて、うるさいと注意していたのを思い出した。 彼の軽快さが、その率直が広瀬には照れくさい感じがしたのだ。

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