33 / 90
雨音の家 33
二階の寝室もかなり広く、角部屋だった。
東城は新しいベッドを購入していた。テレビのCMでやっている何とかいう機能的で科学的なマットレスがしいてあるらしい。アスリートも使っているんだと自慢げに解説されたが、前との違いは広瀬にはわからなかった。
大きなベッドの上で、東城は丹念に彼の身体を可愛がった。何度も唇を吸って、首に胸に舌をはわせた。臍のくぼみを噛んで下腹部を手でなぞった。
外は静かだった。マンションの重厚な壁に囲われているのとは違う静けさだ。この家の外は木々で幾重にも囲まれ、近くに人の気配は全くない。
広瀬は、足を開いて東城の腰にからみつけ、彼を誘った。
彼の両手が尻をつかんで開かれる。ぬるっとしたものが当たった。指が絡んで入り込んできているのだ。いつもはおしゃべりな東城が黙って彼の中を探っていた。ゆっくりと、丁寧に拓いていく。時々、我慢できずに腰を揺らすと、そのたびに唇を、胸を軽く噛んできた。
ぎゅっと、彼の肩をつかんで、自分に引き寄せた。限界が近い。東城はやっとじらしていた指を抜き、自分を入れてきた。空気が押し出されて、喉から声がでる。
静けさの中で、自分の声は湿っていた。声をだすと、東城が中で動いた。中がうねって彼に絡みついていく。その形を熱を逃したくなかった。全部、自分のものにしたい。指先までしびれるような感覚が続き、広瀬は彼の腕の中で果てた。
夜遅くに、広瀬は雨の音に目を覚ました。
パラパラという音が聞こえていたのだ。最初は何かわからなかったが、目が覚めてくるにしたがって雨音だと気づいた。雨が屋根に当たって弾けている。
「雨」とつぶやいて身を起こすと、東城が寝返りをうってこちらをむき、半分眠りながら、広瀬に手をのばしてきた。「どうした?」
「雨の音がします」
「ん?ああ、2階だからな。これくらいの暴風雨になると屋根にあたるのがどうしても聞こえるんだな。うるさい?防音してもらうか?」
「そうじゃなくて」広瀬は、布団に戻った。「雨の音がこんなふうにするなんて」集合住宅暮らしばかりの広瀬には、屋根の雨音は珍しいものだった。
「そうだな」と東城も答えた。
空が近いのだ、と広瀬は思った。屋根をはずしてしまえばそこはもう空だ。雨空でも、それは空だ。そして、この家で雨音を聞いているのは、自分と彼の二人きりだ。
雨音はやがて聞こえなくなった。広瀬は眠る東城に身体をよせ、目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!