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雨音の家 35

春の午後の日差しの中、都心の公園の中にある噴水の周りには、暖かくなってきたせいか、人々が寛いでいた。向こうでは、小さな子供が手を伸ばして水を触ろうとしているのを母親が支えている。 広瀬は、そこで人と待ち合わせをしていた。以前、東城の友人の枝川のところに連絡があり、その後メールのやりとりをした忍沼拓実だ。 広瀬からメールをした後、彼からはすぐに返事があった。直接会いたいとも言われたが、仕事や引っ越しで時間がとれず、今日になったのだ。 子どものころの写真は手元にあるが、大人になった今の忍沼拓実のことはわかるだろうか、と広瀬は思った。忍沼拓実の方は、CG動画で見ているから広瀬のことはすぐにわかる、と伝えてきていた。 広瀬が噴水の前に来ると、男がこちらに走っていた。 身長は自分と同じくらい。ラフなシャツにジーンズだ。ややくたびれたジャケットを羽織っている。痩せていて肩からたすきがけで布のカバンを下げていた。 彼は、会うなり広瀬に手を伸ばしてきた。「あきちゃん、よかった。無事だったんだね」と彼は言い、広瀬を抱きしめようとしてきた。 広瀬は、思わずその手を避けて後ずさった。 忍沼は、自分の手を止めた。そして、手と広瀬を交互にみると、少し恥ずかしそうな顔をして手を下げた。「ごめん。びっくりした?」と彼は言った。 「忍沼さんですか?」と一応広瀬は確認した。 忍沼はうなずいた。「そう。忍沼拓実」そして、微笑んだ。広瀬より5~6歳くらい年上のはずだが若く見えた。「あきちゃん、僕のこと覚えてないんだね」と彼は言った。「そうだよね。あきちゃんは、まだ小さかったから。僕は、ずっと君を探していたんだよ。君が無事かどうかをずっと心配してた」 「無事って、どういうことですか?」と広瀬は聞いた。なにを心配していたというのだろうか。 忍沼は広瀬に公園の中のカフェを指さした。「あそこで座って話ししよう」

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