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春の酔い 4

仕事から帰ってきて、広瀬を裏のカギの壊れた門を通り、灯りで照らされた庭の小道を歩きながら家に向かった。 庭は春めいていて、ところどころに花が咲いていたり、緑が芽吹いていたりする。そのうち雑草がわんさか生えてくるから、草ぬき作業しなきゃらならくなる、と東城が言っていた。口調は軽くそんなことさえも楽しみにしているようだった。 家の中は玄関だけ明かりがついている。 広瀬は、廊下の灯りのスイッチを押した。 東城は不在だ。引っ越してきてまだ間がないのだが、広瀬がホテルで見たハニートラップの女の情報から、組織的な産業スパイの足取りがかなりわかったらしい。張り込みしてタイミングを計ってガサ入れするから、しばらく家には帰らないと言っていた。 前はこういう時は自分のアパートに戻っていたのだが、今はこの家で一人きりだ。二人で住むにも広すぎるのに、一人にはさらに広い。ガランとした天井の高いダイニングで食事していると、あまりにも静かだ。 寝室には東城のご自慢のベッドがある。どれだけ素晴らしいか力説していたのに、自分の方が彼よりも回数多く寝ている。慣れないベッドでは寝つきが悪いので、しばらく眠れなかったら起きてしまおうと覚悟をし横になった。 広瀬は、壁をぼんやりと見た。そこには、自分のアパートから持ってきた地図の絵がかかっている。きれいな色合いが部屋の中の雰囲気を和らげている。この絵を描いた枝川は、新居用に他にも作品を作ってくれるらしい。 枝川のことを考えると、連想のように忍沼のことも思い出される。 この前会った彼の様子に広瀬は不安定な気持ちになった。忍沼が自分に対してあまりに親しげで、話の内容が突飛すぎて、もしかすると全て忍沼の幻想なのではないか、とも思えた。 話を聞いた後は、二度と会わない方がいいと思った。東城も忍沼の話を聞いて、もう一人きりでは会うなと言っていた。実験のことを知りたくて会うなら、自分も一緒について行くと言うのだ。 当たり前と言えば当たり前だが、広瀬によって来る男をそれが誰であれ東城は嫌う。さらに、忍沼のように不可解な男ならなおさらだ。 忍沼は広瀬にもう一度会いたいと連絡をしてきている。見せたいファイルがあるのだという。会えば岩下教授に関する新しい情報が手に入るかもしれない。 そんなことを考えながら、壁を目でたどっていくとカレンダーがあった。並んでいる日付の数字を見てから、ふと、ベッドサイドのデジタル時計を見て今日の日を確認した。 そういえば、東城が帰らなくなってから、もう、10日にはなる。どうしているんだろう。こういう時に一度も連絡がないというのは、珍しい。 だいたい、数日おきで短くはあるが、連絡はしてきたのだ。捜査がかなり難航しているのだろうか。 広瀬は、寝室の灯りを消して、何度も寝返りを打った。

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