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春の酔い 5

次の日の昼過ぎ、広瀬のスマホに何度か電話が入っていた。 東城の姉の美音子からだった。折り返し電話が欲しいというものだった。美音子とは前に電話番号を交換していたが、実際に、かかってきたのは初めてだった。 広瀬は、夜、仕事が終わってから美音子に電話をしてみた。 美音子は電話を取るなり挨拶もそこそこに広瀬に告げた。「広瀬さん、あのね、弘一郎さんが、私の医療センターにいるの。頭を強く打ったらしくて、こちらで検査しているの。それで、広瀬さんに伝えなければって思って電話をしました」 広瀬は、返事につまった。 「医療センターの場所はご存知?」 美音子は場所を教えてくれた。時間外の受付の場所や病室も。 頭を強く打って病院にいるというのはどういうことなのだろうか、と広瀬は思った。いつから入院しているのだろうか。 美音子が自分にわざわざ連絡をしてきたということは、重傷なのだろうか。頭と言うことは、後遺症が残るようなことになっているのか。 グルグルとそんなことを考えながら、広瀬はタクシーを拾い、教えられた住所に向かった。 美音子が『私の医療センター』と言っていた建物はオフィス街のど真ん中にある大きく重厚な建物だ。 教えられた受付には警備員がいた。 広瀬のことは美音子から聞いていたのだろう、すぐに棟内の病室の場所を教えてくれて、入院病棟への入退室用のカードキーを渡してくれた。 広瀬は、足早に病室にむかった。東城の状態がいいのか悪いのか美音子は電話口では話さなかったのだ。詳しいことは、医療センターで説明しますね、と言っていた。 指定された病室の前にくると、広瀬は入るのをためらった。 夜の病室に入ったことはない。入院患者の見舞いはしたことはあるが、だいたいが行く時間を伝えて、向こうも来ることがわかっている状態だ。病室内には彼だけがいるのか、他に誰かいるのかどうなんだろうか。もし、重篤だとしたら、勝手に入っていいものなのだろうか。 ドアの前で立ち止まっていたら、向こうから開いた。 「広瀬さん」 立っていたのは、東城の母親だった。小柄できれいな女性だ。深刻そうな顔はしていなかったから、容体は悪くないのだろう。 彼女は広瀬に言った。「今は、眠っているのよ。でも、あなたが来たって聞いたら弘ちゃん喜ぶわ」そう言われて病室内に招かれた。 そこは、広瀬が想像していた病室とは全く違っていた。高級ホテルのスィートルームさながらで、広々とした部屋に応接セットがあり、その向こうにベッドがあった。 東城は、点滴やらなにやらの管につながっていて、ベッドサイドでは電子機器がバイタルサインを表示していた。素人目から見ても脈拍も血圧も問題なさそうだった。 ただし、顔色はよくない。顔も殴られたようで右頬にあざもできている。

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