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春の酔い 12

何日か後の夜、遅い時間だった。 東城が帰ってきたら玄関の鍵が開いていた。 広瀬が先に帰っていて鍵をかけ忘れたのだろう。不用心だな、でも、こんなところまで入り込む泥棒も少ないだろうけど、と思いながら家の中に入った。 玄関は灯りがついていたが、家の中は暗い。壁のスイッチを押すと、廊下の向こうに靴下をはいた足が投げ出されているのがみえた。 「広瀬?!」驚いて駆け寄ると、広瀬が廊下にうつぶせになって倒れていた。「おい!大丈夫か!?」あわてて身体に手をやり、起こす。 「うん、、、」広瀬が声を出した。 めちゃくちゃ酒臭い。ネクタイを緩めてシャツの喉もとのボタンもはずれている。おまけに顔が赤い。 「どんだけ飲んだんだよ」と東城が呆れて言った。「こんなとこで倒れて寝るなよ」 広瀬の上半身に腕を入れて起こそうとした。ぐったりしていて重い。 「ほら、起きろよ」と身体をゆする。「ここじゃなくて、ちゃんとベッドで寝ろよ」 広瀬は半分目を開けた。首を横に振る。「ねむい」 「眠いじゃないだろ。起きろ。廊下で寝るな」頬を軽くたたく。 「いた」と広瀬は言った。「いたい」とまた言う。「なぐるな」ろれつの回らない口調だ。 「殴ってないだろ。起きろよ、酔っ払い。全く、どこでどんだけ飲んだんだよ」 広瀬は酒は強い方だ。 こんな風に酔って正体をなくして寝るなんて、みたことがない。廊下で寝るほど酔っぱらって、逆によくここまでたどり着いたものだと感心した。 まだ、新しい家に引っ越してきてから間がない。タクシーで帰ってきたのだろうか。 一緒に飲みに行った誰かに送ってもらったということになっていなければいいが。 ここに住んでいること自体大井戸署には届けているので、隠す必要はないだろうが、それでも、知っている人は少ない方がいい。 また廊下に横になって眠ろうとするので、腕を強めにつかんで引き起こす。 「やめて、、ください」と広瀬は顔をわずかにしかめた。「らんぼうなこと、、しないでくださ、、、、い」 「乱暴って、人聞きの悪いことを。してないだろ。悪いことしてる気分になるから、大袈裟にいうのをやめろ」と東城は言った。「起きろってば」 広瀬が前に倒れてきたので、胸で受け止める。彼は自分の胸に顔を当てて息をしていた。 それから、ふいに顔をあげ、目がぱっちりと開けた。だけど、潤んでいて赤く酔いがまわりきっている。 「とうじょうさん?」と彼は言った。言葉もおぼつかない。「いたんですか?」 「さっきからずっとここにいたよ」と東城は答えた。少しだけ低い怖い声を出してみる。「ベッドに行って寝ろよ」

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