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春の酔い 14

しばらく東城は広瀬が自分にかけてくる重みを感じていた。 広瀬が、大きく息をついている。瞳がゆらゆらして、定まらない。自分も酔ってしまいそうだ。 ふと、東城は長い間聞きたいと思っていたこと思い出して聞いた。今なら、なんでも聞けそうだ。 「いつから?俺のこと好きだった?」 広瀬は、顔をあげてぼんやりと自分を見ている。「いつって」と彼は鼻にしわを寄せた。考えているのだ。「はじめて、あったときから?」疑問形だ。 「はじめてって、異動になる前日に俺がお前を捕まえた時ってこと?」 あれは最悪の出来事だと思っていたんだけど、と東城は思う。あの時から好きって、広瀬の好みってなんだろう。かまわないけど。 ところが、広瀬は否定した。彼は笑う。「ちがいますよ」と言う。「わすれちゃったんですか?もっと、ずうっと、ずうっと」広瀬はしゃっくりした。声がつまっている。「まえ、ですよ」 「前って?」東城はとまどった。 相手は酔っ払いだ。追求しても無駄だろう。でも、最初に会ったのは異動してきたときで、それ以前には広瀬のことは全く知らなかった。 広瀬はまたしゃっくりしている。「まえに、ほら、」と言葉をきる。「とうじょうさんがね、おにのこだったときからですよ」 「鬼の子?」東城は聞き返した。なにかの比喩だろうか。全くわからない。 広瀬は笑顔だ。「おぼえてないんですか?おにのこだったでしょう?」そう言ったあと、彼は、東城の胸に再度顔をもたれさせ、眠ってしまった。 そして、その後は何を話しかけようと、ゆすろうとひっぱろうと、びくともしなかった。

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