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春の酔い 16

目を閉じてじっとしていたら、「なあ」と東城が珍しくためらいながら言った。「なあ、聞いてもいいか」 「なんですか?」と広瀬は答える。 しばらく沈黙が続く。「なんですか?」ともう一度聞いて目を開け、東城を見た。 「あ、あのな。変なんこと聞くかもしれないんだけど、『鬼の子』ってなんだ?」 広瀬は、眉根をよせた。「なんですか?」と同じことを言った。 「いや、だから、『鬼の子』だよ」 「知りません」 「知らない?」 「ええ」 「お前が、夕べ、すごく酔っていて、言ってたんだけど」 「俺が?」広瀬は考えた。「記憶、ないときです」と答える。 「あ、そう」と東城は言った。「意味ないのかな。覚えてない?」 広瀬はうなずいた。 「心当たりも?」 再度うなずく。 「そうか。じゃあ、いいよ」と彼はあっさり言った。 広瀬は目を閉じた。鬼の子ってなんだろう、と自分に聞いてみたが、思い出せなかった。

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