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春の酔い 17

ある暖かい日の夜、「面白いことがあるんだ」と東城が子供のように言った。東城は最近やけに機嫌がいい。もともと明るい人ではあるが、この前、広瀬が酔いつぶれた日以降、気持ちがさらに上振れしている感じがする。最近、いいことでもあったのだろうか。 準備するから二階においでと言われていくと、「広瀬、こっちだ」と声がした。寝室の隣の部屋には、屋根裏に上る梯子がおろされている。 東城は、梯子の上から顔をのぞかせた。「こっち。こっち」と言って手招きしてくる。 いぶかしがりながら広瀬は梯子段を上った。 上は物置にもできる屋根裏だ。 今は何も置いていない。ここがあるのは知っていたが、上るのは初めてだった。 ガランとした空間の向こうで、窓が開いていた。小さなベランダに東城は出ていく。 そして、壁に手をかけると、ひょいと登っていく。広瀬も窓の外に顔を出すと、壁に沿って梯子があった。 上を見ると屋根の上に小さなデッキのようなものがついていて、東城がいた。 広瀬も梯子を登った。思っていたよりデッキは広い。 ミカン箱くらいの木の箱があり、電気のランプが3つほど置かれていた。木箱にはビールとつまみがのっている。 「前から屋根の上で酒盛りしてみたかったんだ」と東城は言い、缶ビールを広瀬に渡してくれた。「リフォームついでに作ってもらった。夢がかなったな」 プシュッと音を立ててビールの缶を開けた。東城の缶と軽く合わせて乾杯する。一口飲むと、キュッと冷えたビールが喉をすべる。 「この季節でよかった。見てごらん」そう言って東城は広瀬の後ろを指さした。

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