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夏休み 2
リビングに、瑞斗と名乗った少年と美音子、岩居の叔母、もう1人知らない女性がソファーに座っている。
東城は上座に座らされていごこちが悪そうだ。女性たちが、リビングに入るなり、彼をそこに座らせたのだ。
広瀬は話しを聞いては悪いと思い席をはずそうとしたが、美音子にとめられた。「ここにいてくださったほうがいいわ」と言われる。
広瀬は隅の方の背もたれのない椅子に腰掛ける。いつでも立ってこの居間からでていけるようにしよう。このピリピリして言う女性たちの中に東城を置いて逃げるのは気が引けるが、人のことより自分のことだ。
お茶でもだしたほうがいいのか、と思っていたら、岩居の叔母が準備よく紙袋からコーヒーを人数分取り出す。
「東城瑞斗くん」と美音子が紹介する。「私たちからするとはとこの息子さんよ。覚えてる?ずいぶん前の東城のおじいさまのお祝いの会であったことがあるわ」
「そうですか」と東城は興味なさそうに返事をする。
「実はね」と美音子が単刀直入に切り出す。「瑞斗くんをね、夏の間このうちに泊めて欲しいの。8月30日まで。ほら、空いてる部屋いくつもあるでしょ」
東城は、間髪いれずに首を横にふった。「ありえないでしょう、美音子さん。どんな事情か知りませんけど、うちは無理です」
「無理はわかっててお願いしているのよ」と美音子がいった。
すぐに瑞斗が横から言う。「こんなうちいたくないよ」
東城はうなずく。「このガキもこういってることだし、未成年を本人が望んでもいないのに知らないうちに泊めるのはどうかと思いますよ。だいたい親御さんはどうしたんです。そちらの方が保護者ですか?」と知らない女性に目をむける。
「この人は、瑞斗くんの家のお手伝いさんの若山さん」と美音子さんは紹介する。「瑞斗くんのご両親は事情があってこられないの」
「保護者の了解もなく子供つれてきてるんですか?」
「了解はとってあるのよ」
「そうですか。どっちにしても、うちはだめです」東城は繰り返す。
「事情を聞いてくれればあなたの考えも変わるわ」と美音子はいう。「瑞斗くんとちょっと席をはずしてもらったほうがいいかしら」と美音子は若山さんに言う。
若山さんが立ち上がろうとすると瑞斗が言った。「事情なんて知ってる。親父が女を連れ込んだからうちにいられなくなっただけだ。出てけっていわれたんだ。こんなの虐待だよ」といまいましそうに言っている。
東城は、瑞斗をみた。「へえ」と彼は言う。「お母さんはどうしてるんだよ」
「お袋は、アメリカにいったっきりだよ。若い男と一緒だってみんな言ってる。俺以外は好き放題してて、なんで俺だけこんなうちにいなきゃいけないんだよ」
「そりゃあもっともだな」と東城はうなずいた。「お前のいうこともわかるよ。ホテルにでも泊まらせればいいじゃないですか。彼も気楽だし」
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