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夏休み 7
リビングに座ってタブレットを見ている広瀬の髪をかきまぜいつものように額にキスしようとして、ソファーのむこうに座ってテレビをみている瑞斗に気づき手をとめた。
彼のことはすっかり忘れていたのだろう。思い出してうんざりした顔をした。
「何か食べますか?」と広瀬が聞いた。
「食べてきた。お茶を入れるよ。お前はいる?」
「ありがとうございます」
東城は瑞斗にも声をかける。「瑞斗、お前は」
「うん」と瑞斗は小さい声で返事をした。
キッチンテーブルで二人でお茶を飲んでいると瑞斗がのろのろやってくる。「広瀬、お菓子かなんかない?」と聞いてきた。
広瀬が立ち上がって戸棚をあけてみる。
「お前、目上の人にむかって呼び捨てとはなんだよ」と東城が注意している。
「なんだよ。呼び捨てにするなってルールいわれてないじゃん」
「あのなあ、それはルールじゃないだろ。礼儀ってものだ」
「あんたは俺のことも広瀬のことも呼びすでじゃないか。何が礼儀だよ」
広瀬は、ヒートアップしそうな二人をなだめる。
こんな役目になるとは思わなかった。「東城さん、いいですよ。中学生のいうことにいちいち目くじら立てなくても」
「俺、高1なんだけど」と瑞斗が言う。
「あ、ごめん」と広瀬は言った。そして、戸棚にあったスナックと誰かからのもらいものの焼き菓子を出す。
瑞斗は焼き菓子の袋をあけてもぐもぐ食べている。しばらくして彼が口を開いた。「このうち、裏の門が壊れてるよ。昼間に人が庭に入ってきてた」
「近所のガキか?」と東城が聞いた。
「ううん。おじさんだった。弘一郎と同じくらいの年のおじさん。もっと上かな。サングラスかけてた。痩せてた。門の外にも何人かいたよ。暑いのに黒いスーツきてて、ネクタイしてた。テレビで見るヤクザみたいだったよ」
東城は、その話に眉を顰める。自分の名前を呼び捨てにされたのもおじさんと言われたのも気づかないようだった。
「俺が見てたら気づいて声かけてきた。彰也はこのうちにいるのか?って聞いてきたよ。あれ、知り合い?彰也ってだれ?」
「なんて答えたんだ?」と東城。
「知らないって答えたよ。このうちの者じゃないからって。そしたら、しばらくうろうろして引き返していった。外に車停めてたみたいだったよ。ねえ、彰也ってだれ?」
「俺のことだよ」と広瀬が答えた。「俺の名前」
「ふうん。あれヤクザ?なんで広瀬を探しにきたの?」
「さあな」東城は答えなかった。「門は来週夏休みなったら直す。また、来ても絶対に外に出るなよ」と東城は言う。
「いいけど、広瀬、ヤクザに追われてるの?」瑞斗は広瀬を見る。
「違うよ」と広瀬は答えた。
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