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夏休み 9
昼になって、瑞斗がそろそろおなかがすいた昼食どうしようと思っていたら広瀬が部屋をノックしてくる。
どうぞ、というとドアを開け瑞斗の顔を見て、「買い物に行ってくる」と言った。
瑞斗はうなずき思わず笑った。「やっぱ、買い物いくんじゃん」
広瀬も笑った。広瀬は瑞斗からみてかなり年上だけど、かわいいな、と思う。笑顔になると華やかだ。
「買い物っていっても洋服じゃないよ。食料買いに行く。このまま食べ続けてたら食料がなくなって飢え死にしちゃう。この辺コンビニないんだ」と広瀬が答えた。「瑞斗もくる?お昼、外で食べるけど」
迷ったが、行くと答えた。
広瀬は車を出す。家の前に駐車してある大型のSUVだ。広瀬には似合わない車だと思った。弘一郎のものなのだろう。威張っている彼が乗りそうな車だ。広瀬ならもっとスマートなスポーツカーとかが似合う。
本館から門にむけての道を抜けて道路にでる。
近所のスーパーにでも行くのかと思ったら、かなりの距離を走り、郊外の大型のショッピングセンターについた。広瀬は大きなカートを出してきて、迷うことなくどんどん食べ物をつんでいく。出来合いのものを買うのかと思ったらそうでもなく肉や野菜もとる。
「こんなにいっぱいどうするの?」と聞くと「冷蔵庫」と一言答えられた。知らないのか?とでもいいたそうな口調だ。
途中で、西瓜が山のように積まれていた。大きな丸いままの西瓜だ。つやつやしていてどれも立派だ。
上手に積み上げられているのを感心して瑞斗が見ていると、「西瓜食べる?」と聞かれた。
「でも、こんな大きいのどうするの?」とまた聞いてしまう。
「冷やして切って食べるんだよ」と広瀬は言った。「西瓜、食べたことないの?」
「あるに決まってるだろう。でも、こんな丸のはないな。俺、一人っ子だし。若山さん、いっつも切ってあるの買ってくる」
「1人でもすぐ食べちゃうよ、この程度」と広瀬は言った。彼はひょいっと西瓜を持つと、カートにつんだ。
昼ごはんはショッピングセンターの中で食べた。焼肉のお店のランチで広瀬は一番量が多いのを頼んでいる。瑞斗も同じものを頼んだ。
広瀬は無口で、瑞斗に何も聞いてこなかった。
だいたいの大人は、なんで高校を退学になったのか、とか、母親は今どうしているのか、とか聞いてくるのだが、瑞斗から話さない限りなにも言わなかった。
帰りの車でかかっていたラジオを聴きながら瑞斗は自分が読んでいる本の話をした。広瀬が同じ作家の本を持っているといったので帰ったら貸してもらうことになった。
家につくと車から荷物をおろし片付けるのを手伝った。広瀬が店では偉そうに「冷蔵庫」と言っていたが、思ったとおり全部は入りきらなかった。どうするのか、とみていたら、外においてもすぐにはくさらなさそうなものを適当に床においたままにしていた。それほど神経質ではないんだな、と思った。
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