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夏休み 11
広瀬はリビングにはいなかったので、2階にもどり昼間もしたように広瀬の部屋のドアをあけてのぞきこみ、「広瀬、西瓜切りたいんだけど包丁どこ?」と言った。
そこで固まってしまった。
いつの間にか帰ってきていた東城が部屋にいたのだ。
しかも、彼は、椅子に座る広瀬に覆いかぶさるようにしてキスをしていた。
広瀬の細い顎が東城の大きな口に蹂躙されていた。彼の舌の動きが、瑞斗からもわかるような強さだ。さらに、東城の日にやけて筋肉の張った腕が広瀬のシャツの中に入り込み、乱暴に身体をまさぐっていた。
瑞斗の声に広瀬が目を開けてこちらを見た。
大きな目は濡れて、目じりが赤くなっていた。
「ごめん」と瑞斗はとっさにあやまって、ドアをしめた。自分の部屋に走って逃げた。
ドアをしめてその前に座り込んでしまった。心臓がどきどきいっている。
愛人なんだから、当たり前だ。キスぐらいする。
自分に言い聞かせる。キスどころか、ああやって、いろんなことしてるんだ、あの二人。
広瀬、キスされて気持ちよさそうな顔してた。あんな、顔するなんて。あの後、どうするんだろう。
ネットのエロい動画にあるみたいに、いいように愛撫されて、抵抗できずにいて、それから、身体中舐められたり吸われたりするんだろうか。
ドンと背後のドアが叩かれて、すぐに強引に押し開けられた。
座り込んだまま見上げると東城が立っていた。
「ごめんなさい」と瑞斗は思わず言ってしまった。
東城はため息をつく。「ドアはノックってルール」と彼は言った。怒っていたようだが、瑞斗のあやまった声があまりにもなさけなかったからだろう、あきれた表情に変わっている。
「こいよ。西瓜食いたいんだろ」
彼は、あごをしゃくった。
キッチンで包丁をだしてきてくれる。意外と簡単な場所にあるものだ。「西瓜じゃなくてお前の頭を切ってやりたい気分だよ」と東城は言ったが、言葉の内容とは異なり、声は穏やかになっていた。
「広瀬は?」と聞く。
「ショックで布団にもぐりこんでる」
「ごめん」
「いや、どっちかっていうと俺に怒ってるんだ」と東城は言い肩をすくめた。
「え?」
「嫌だって言ってたのを強引にしたから」と東城がもごもご言っていた。
そして、西瓜を切って皿にいれた瑞斗にいう。「お前、自分の分だけ切るなよ。俺たちの分も一緒に切れ」
「食べるの?」
「ああ。広瀬も呼んでくる。あいつの顔見てもあやまったりすんなよ。あやまったりしたら俺に怒ってきそうだからな」とくぎをさされた。
彼はそういうと二階にあがっていった。その間に、瑞斗は適当に西瓜を切り分けた。大きい西瓜も3人で食べていたらあっというまになくなりそうだと思った。
しばらくして広瀬が東城と降りてくる。
いつもの無表情なすました顔をしている。西瓜をみて少しだけうれしそうな顔をした。
東城がテレビをつけた。
ニュースをやっている。世界情勢は厳しく景気は悪いらしい。深刻そうな声を出しているアナウンサーの声をバックに、3人で黙って西瓜を食べた。
夜の遅い時間にこんなふうにほとんど知らない大人とひたすら西瓜を食べるのは奇妙な気がした。だが、水分たっぷりの西瓜は甘く、いくらでもあり、暑かった日中の空気をさましてくれた。
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