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夏休み 12

東城と広瀬は朝はほぼ同じくらいの時間に出て行くようだった。瑞斗は夢うつつの中で彼らがあわただしく支度をし、ドアをしめていなくなるのを聞いている。 その日は、東城の方が先に帰ってきた。瑞斗がいるのを確かめると、何も言わず風呂に入り、夕食の支度をしている。支度といっても、冷蔵庫にある食料を温めて食器を出す程度だが。食事、と言って瑞斗に声をかけてきた。 「明日、石田さんが朝から来てくれる。食事作ってくれたり、掃除してくれたりしてくれる人だから」と東城は言った。「お前がこの家にいることは伝えてる。お前の分も作ってくれるらしいから、食べたいものがあれば、リクエストしてもいいぞ」と東城は言った。「洗濯も片付けてくれるから、だしとけ」 「石田さんが家事全部やってくれるの?」 「まあ、そうだな」と東城は言った。 「広瀬はしないの?」 「なんで広瀬がするんだよ」 「なんとなく」愛人だからするんだと思ってたと言いそうになり口をとじる。 だが、瑞斗が何をいいたいのか東城は察したようだった。「お前、広瀬に言うなよ」と彼は言った。「あいつ、いつも何にも関心ないですってすました顔してるけど、実際は自分が周りからどう見られているのか、とか気にするタイプだから」 「そうなんだ」と瑞斗は言った。 しばらくすると広瀬が食事中に帰ってきた。3人で食事になる。 「お前、昼なにやってるんだ?」と東城に聞かれた。 「別に、テレビみたり、ゲームしたり」と瑞斗はこたえた。 「ずっと家にいるのか?遊びに行ったりしないのかよ、高校生が」 「暑いし、駅まで歩いてるうちに熱中症になりそうだよ」 「なんだ、それ」と東城があきれた声をだしている。 「それに、鍵がないから、あけたまま出ててまたあのヤクザが入ってきたら困るだろ」 東城は口にいれようとしていた煮物を自分の皿に戻す。「そういえば、そうだったな。鍵渡してないんだった。すまん、すっかりそのこと忘れてた」 「いいよ、別に」と瑞斗は答える。 「いや、夏休みなのに遊びにも行けないっていうのはだめだろ。友達と遊ぶとかしろよ。うちには呼ぶなよ」 そういいながら彼は立ち上がりダイニングをでていく。しばらくして手に鍵をもってきた。はい、と瑞斗にわたしてくる。 「2階の窓はまあいいけど、他は戸締りしてくれ。これは玄関の鍵」 「うん」 鍵には、小さいキーホルダーがついている。どこかからのお土産のようなありがちな小さい白い貝殻だ。 「それと、断りなく鍵のコピーつくるなよ」と言われた。 「作らないよ」なんてこというんだ、と瑞斗は思う。 「そういうことする人はほとんどいないと思いますよ」と広瀬が横から言った。 「そうかな」と東城は広瀬に答えていた。

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