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夏休み 13

次の日も東城は遅く帰ってきて広瀬と遅い夕食をとっている。食事中、広瀬はほとんど話をしないが、東城はよく話しかけているというのも見慣れてきた光景である。 おまけに「今日何してたんだよ」と東城は瑞斗にまで話しかけてくる。 干渉しないとか言って、彼は顔をあわせるとすぐに今日は何してた?と聞く。監視しようとかそういう意図ではなく、単に高校生が毎日家で1人なにしてるんだ?と疑問に思っているらしい。 「今日は、図書館」と瑞斗は正直に答えた。読みたい本があったので借りに行ったのだ。 「とーしょーかーん?」東城はわざと長くその単語を伸ばしていった。「なんだそれ。どこにあるんだよ。近所?」 「駅前ですよ」と広瀬が東城をたしなめるように言う。「大きいきれいな図書館ですよ。最近建て替えた」 「広瀬、行ったことあるのかよ?」 「もちろんです」 「へえ。で、図書館で何してたんだ?」と瑞斗に聞いてくる。「かわいい司書のバイトの女の子でもいるのか?」 「いるわけないだろ」と瑞斗は答える。なんだこの大人は、と思う。高校生をなんだと思っているんだ。「本を借りたんだよ」 「本をねえ。へえ。それで?その後は?図書館のあと」 「家に帰って借りてきた本を読んだ」と瑞斗は答える。「干渉しないんじゃなかったの?」 「ああ、そうだった。すまん。でも、なあ、お前。他に楽しいことないのか?彼女とかいないの?」 「いないよ。男子校だったし」 「学外でも彼女はできるだろ。近所の女子校とか、なんだかんだ」 瑞斗はいやな予感がした。この話の方向は、例の話になりそうだ。こういう話題が好きな大人がすぐにする。 そしてその予感はあたっていた。東城がにやにやしながら聞いてくる。「お前、もしかして、童貞?」 瑞斗は、できるだけ感情をださないようにする。「そうだよ」それがなんだっていうんだ。だいたい、高校1年生で経験あるほうが少ないだろう。 「へえ」と東城は言った。「どっか連れてってやろうか?ちゃんとしたところで、いい女にしてもらったら」 「東城さん」と広瀬があきれた声を出している。「淫行条例にひっかかりますよ。子供になんて話してるんですか」 「いや、だってさ、もう高校生だろ?気になるじゃないか。親戚の男が、いつまでも童貞のままって、どうなんだよ」 「もう高校生って。俺、まだ16歳なんだけど」とつい反論してしまう 「16歳」と東城は瑞斗の年齢を繰り返す。「16歳くらいって普通経験あるんじゃないのか?」と彼は答えた。 「そんなわけないよ」 「そうか?」 「広瀬はどうなんだよ」と瑞斗は広瀬に聞いた。 広瀬は味方のはずだ。今でこそ、弘一郎とあんなことやあんなことばっかりしてるみたいだけど。瑞斗は広瀬が弘一郎なんかと付き合うまではきれいなままでずっといたような気がしていた。 今でもきれいなままだ。 だが、すぐに聞かなきゃよかったと思った。 「広瀬は中学生のときに経験済みだもんな」と東城がかわりにこたえる。 「東城さん、何いうんですか」と広瀬はさえぎるように言う。 「そういってただろ。中3のとき、ナンパされて、きれいな長い髪のお姉さんだったって」 「プライバシーだと思うんですけど」広瀬は少なからずむっとした声をだしている。 「そうか?それは悪かったな」 瑞斗は広瀬をまじまじと見てしまった。こんなすました清々とした顔をしてるのに、なんてことだ。 広瀬は瑞斗とは視線を合わせず、むこうをむいたままだった。 それからしばらくネットでエロサイトをみていて髪の長い美人がでてくると今よりもずっと若い広瀬と裸で抱き合っているシーンを頭にうかべてしまった。 さらに自分が欲情している相手が髪の長い美人になのか、広瀬になのか自分でもわからなくなった。

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