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夏休み 16
そんなことがあって瑞斗は後ろめたい気分になっていた。広瀬とまともに顔を合わせられそうにない。幸い、彼は朝早くから仕事で出ていた。
今日は東城の方が休みのようだ。だが、のんびりするという考えはないらしく、早朝のランニングから帰ってくると庭の水まきをしていた。その後は、1階のトレーニング用の部屋で筋トレをしている。
リビングでテレビを見ながらスマホをいじっていたら、昼になって、「なんか食うか?」とむこうから声をかけてきた。
連れていかれた先は、駅前のステーキハウスだった。好きなものを頼んでいいと気前よく言われたので、わざと一番高いのを頼んでやったら、面白そうな顔をしていた。
本人は赤身の肉を頼んでいた。体形にはかなり気を使っているらしい、というのは広瀬の情報だ。
食べていると話しかけられた。
「お前、スポーツやってないのか?部活とか?」
「小さい頃は、サッカーと水泳習ってたけど、今はなんにもやってない」
「やりたくないのか?」
「それどころじゃないから」
「そう言われればそうか」と彼は答えた。
「弘一郎はスポーツしてたの?」と聞いてみた。
「大学の時に、空手始めた。フルコンタクト空手ってわかるか?寸止めしない空手」
「へえ。強いの?」
「まあな」と東城は臆面もなく言った。「大会で勝ってる。今は三段」
「三段って、どれくらい?黒帯?」
「そうだ。興味あるか?お前もやる?」
「殴られるのはちょっと」
「合法的に誰かを殴れるともいえる」と東城は冗談めかして言ったが、かなり本気だろう。「運動して食ってたら、身体もでかくなるぞ。お前、うちの家系にしては小さいだろ」
大きなお世話だと思った。「別に何とかの大木みたいになる必要はないから」と言い返したら東城は笑っていた。
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