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夏休み 20
瑞斗は玄関の中に入り鍵をかけた。震えが止まらない。手が思うように動かないが、ポケットから自分の電話を取り出した。
どこにかけたらいいんだろうか、わからない。
ガタガタ震えながら、深呼吸をして、まず、若山さんに電話をした。
「瑞斗?」と名乗る前に若山さんが言った。「どうしたの?」
心配そうな声だった。いつもそうだけど、若山さんは自分を気遣ってくれる。
急に、心配させちゃだめだ、と瑞斗は思った。できるだけ何気ない声を出そうとした。だが、喉がカラカラで声が上手く出ているとは思えない。
「なんでもないんだけどさ、弘一郎と連絡取りたいんだ。でも、あいつの番号わかんなくて」
「そうなの?でも、どうして?何かあったの?」
「なんでもないよ。家の中探し物してるだけ」
声が裏返りそうだ。やっぱり若山さんに言ってしまおうか。だけど、若山さんはこの家とは関係ない人なんだ。迷惑かけちゃだめだ。
「だから、番号知らない?」
「私はわからないけど、林田先生ならご存知だと思うわ。電話してもらいましょうか?」
「うん、そうして。俺の番号、弘一郎に言って、電話かけるようにして」
「わかったわ。瑞斗、そちらでどうしてるの?毎日、ご飯食べてる」
「ああ、うるさいなあ。大丈夫だよ」とわざと冷たく言った。「早くしてよね。急いでんだから」そう言うと、電話を切った。
待っていた時間は数分だろう。瑞斗は、玄関のところにしゃがみ、じっと自分の電話を見つめていた。
画面が切り替わり、知らない番号が表示される。すぐに、とった。
「弘一郎」と瑞斗は電話のむこうにむかって話した。緊張で息がつまって声がでない。
「瑞斗?」と東城の声がした。突然の連絡に戸惑っているのだ。
「あの」
「どうした?」異常を察したのだろう、東城の声は興奮している瑞斗をなだめるような落ち着いた冷静な声になる。
「また、来たんだ。この前言ってた、ヤクザみたいな奴が」途切れ途切れに瑞斗は話した。
「そうか。お前は、今、どこにいるんだ?」
「うちの中」
「鍵は?」
「かけてる」
「よかった。そのままそこにいるんだ。何があっても鍵をあけるなよ」
「そうじゃないんだ。広瀬が、弘一郎、広瀬がいっちゃったんだ」
「ヤクザと一緒にか?」と東城が聞いてきた。
瑞斗は電話にむかってうなずく。
「わかった。今から帰る。お前は今いる場所を離れるな。絶対に動くんじゃないぞ」
東城はずっと冷静な声だった。
瑞斗はまた電話にうなずいた。
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