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夏休み 21
玄関の鍵が開き、東城が戻ってきた。
それまで長い時間瑞斗はその場所を動けなかった。東城は息を切らしてはいたが、落ち着いて、瑞斗の前に腰をおとして顔を覗き込んできた。
「けがは?」
「俺はないよ」と瑞斗は言った。
「ヤクザは、何か広瀬に言ってたのか?」と東城に聞かれた。
瑞斗は聞いた通りのことを全て東城に話した。
東城は、何点か確認をした。ヤクザが言っていた店についてや、他にヤクザの仲間がいたかどうかなどだ。瑞斗はわかっている限りのことを答えた。
瑞斗の話を聞きながらも、彼は、スマホを操作している。「大丈夫だ。広瀬のGPSをとるから、だいたいの場所はわかる」と彼は言った。そして、立ち上がった。
「どうするの?」と瑞斗は聞いた。
「店に行く」と東城は言った。
「俺も行く」と瑞斗は立ち上がった。「連れてって」
東城はだめだと言おうとしていたので、その言葉を言わせないようにした。
「行ったら役に立つよ。邪魔しないし、見張りもできる。最悪、誰かに助けを呼ぶことだってできる。それに、俺、車運転できるんだよ。親父の車で遊んでたから」
連れて行ってくれと何度も頼んだ。
東城はしばらく迷っていた。
だが、うなずいた。
「わかった。だが、ここからは俺の言うことに従えよ」と東城は言った。「相手は頭のおかしいヤクザだ。冗談では済まされないことばっかりだからな」
瑞斗はうなずいた。
東城は車を出した。瑞斗は彼に聞く。「あの、ヤクザ、誰なの?広瀬はよく知ってたみたいだけど」
「名前は、勢田だ。黙打会という広域暴力団の幹部だ」
「そんな奴がなんで?」
「ずいぶん前から、広瀬に絡んできている。広瀬に、惚れているんだ」と東城は答えた。「お前が、今日家にいてくれて、俺にすぐに連絡してくれてよかった。広瀬は、なんというか、ちょっと無茶なところがあるんだ。危ないとか怖いことになるっていう想像力が弱いんだ。お前がいなかったら広瀬の行方もわからないままになってた。ありがとう」と礼を言われた。
その後、東城はじっと前を見て口をきかなかった。
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