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夏休み 28
「留年しそうになって、友達が、テストを盗んできたんだ。それを、なんというか、俺が手配して、困ってるみんなにバラまいたんだよ」と東城が言った。「カンニングの片棒担いだんだ。そしたら、急に学校から退学しろって言ってきた。成績が悪いのは仕方ないし、喧嘩は若いから目をつぶってたが、カンニングは卑怯な行為だから、退学しろいってきたんだ」
「カンニングで退学って、自慢になんないな」退学理由はてっきり、暴力沙汰と思っていた。
「そうだよな。でも、あの時は、留年したくなかったし、悪くない考えだって思ったんだ。で、お前は何で学校馘になったんだよ」と東城が気軽に聞いてきた。
瑞斗は、ボルトを締めた。「同級生を殴って、ナイフで脅かしたんだよ」と言った。なかなかボルトが入っていかないので入れなおして回してみる。
「そりゃまた物騒だな。なんでそんなことに?」
「俺、いじめられてて」と瑞斗は答えた。「中一の時から。最初はからかわれるくらいだったんだけど、だんだん、ひどくなって。学校なんか、行きたくなかったんだけど」さっきのホースの水がまだぽたぽた額から落ちてくるのを手の甲でぬぐった。「お母さん、アメリカに行ったきり戻ってこないし、そのうち、オヤジの女がうちに来て、学校行けってつべこべいうから、仕方なく行ったんだ。そしたら、5人くらいにトイレで殴られて、金出せって言われたんだ」ナイフは、ネット通販で買って、ポケットに入れて学校に行った。「決着つけるつもりだったんだけど、相手が思ったよりすぐにビビッて、先生呼びやがった」
その後は、あっというまだった。もともと真面目に通っていなかった瑞斗は、退学になり、家にいたら、父親の愛人とも揉めて、追い出されたのだ。
何度か試して、やっとボルトを締めることができた。東城がその間に4つくらいボルトを締めていた。
「もっと、早くやってたらよかったよ。脅かしたら、泣いてたやつもいたからさ」と瑞斗は言った。
広瀬が、また、ホースで水をかけてきた。
瑞斗は自分から入って頭から水を浴びた。冷たくて気持ちがよかった。
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