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自分の定位置。
ⅩⅧ
夜食の差し入れをして以来、セシルはカールトン卿の書斎に赴くことが増えた。
おかげでベッドに入る時間は以前よりもずっと遅くなり、今や起床時間は午後三時を回ってからになった。
生活が朝方から一変し、夜型へと変わりつつある。セシルは毎夜イブリンから教えてもらった彼の好物を手にして書斎を訪れた。今夜セシルが選んだものはキッシュだ。パイ生地の上にベーコンとチーズ、それから玉ねぎを乗せて焼き上げた。それらは一口で食べられるようにと小さく切った。
(ヴィンセント、今日も気に入って食べてくれるかな……)
不安と期待がない交ぜになったセシルの手はほんの少し震える。
邪魔をしてはいけないと思いつつも、セシルはこうして彼の元へと夜毎訪れてしまう。それでも嫌な顔ひとつしない彼はとてもできた紳士だ。カールトン卿を知れば知るほど、セシルの慕情は増すばかりだ。
「あの、ヴィンセント。キッシュをお持ちしました」
今宵もまた、セシルが控え目にノックする。彼は直ぐさま扉を開けてくれた。
しかし、いつもは山積みにされている机の上には何も無い。――ともすれば、仕事は片付いたということだろうか。
セシルが首を傾げていると、カールトン卿はセシルの手を取り、膝の上に引き寄せた。
カールトン卿の膝の上は、最近ではもっぱらセシルの所定位置になってしまった。
恥ずかしいという気持ちはあるものの、好きな人のずっと近くにいられることが嬉しい。高鳴る胸を振るわせ、セシルは肩を縮めて彼の上に大人しく座った。
「セシル、今日は君に聞きたいことがあってね。言いたくなければ話さなくてもいいから教えてほしい」
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