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会いたい。
ⅩⅨ
窓から差し込む強い日差しが真っ白なレースカーテンをすり抜ける。その日の午後も、セシルはイブリンの部屋で編み物をしていた。
ロッキングチェアを揺らしながら編むこの時間はとても落ち着く。
カールトン卿は今日もやはり書斎にこもりきりで姿を見ることは叶わない。
――会いたい。
好きな人は少し手を伸ばせば届く距離にいる。彼に慕情を抱くセシルがそう思うのは至極もっともな感情だ。しかし、自分は夜な夜な彼の書斎に立ち寄って邪魔をしている。せめて日中だけでもカールトン卿の邪魔をしないよう、心掛けねばならない。
セシルの心は日を増す毎にカールトン卿へと大きく傾いていく。
「それはショースかしら?」
セシルの手の中で次第に形を成していく白いそれ。イブリンは、はしばみ色の目を窄め、柔らかな声音で尋ねた。
イブリンとカールトン卿はやはり親子だ。仕草がとても似ている。セシルの胸が跳ねた。
「はい。ヴィンセントにプレゼントしたくて……」
緩まりそうになるその唇をきゅっと引き締め直し、セシルは控え目に頷いた。
果たして彼はこのプレゼントを受け取ってくれるだろうか。カールトン卿は黒やダークブラウンといった暗い色を好んでいる。この白ならば色合いもぴったりだ。そう思って編みはじめてはみたものの、けれど完成間近の今になって臆病風に吹かれた。
――もし喜んでくれなかったら?
――いらないと拒絶されたら?
たくさんの、『もし』がセシルの中で生まれていく。
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