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彼が会ってくれない理由。

 ⅡⅩⅠ  明くる夜、月が顔を出すその頃になっても、カールトン卿は姿を現さなかった。  やはり彼は今夜も公務に勤しんでいるのだろう。セシルは彼がいるであろう書斎へと赴き、扉をノックする。  これまでの彼なら、どんなに忙しくてもセシルを追い出さなかった。部屋に入れ、優しい言葉のひとつでも掛けてくれた。それなのに……。  今夜ばかりは違っていた。 「すまない、今は少し忙しいんだ」  書斎の中から声が聞こえたと思ったら、それっきり、彼はひと言も話さなくなった。  出て行け、とそう言わんばかりの態度に、セシルは初めて彼から拒絶されたと知り、胸を痛めた。  カールトン卿がセシルを拒絶した原因はおおよそ判っている。おそらくは昨夜にした口づけが悪かったのだ。  今夜がダメなら明日。明日がダメなら明後日。  いつかは彼の機嫌が直ることを祈り、セシルはその日から夜毎、彼の書斎に通い続けた。けれどもセシルがどんなに謝罪のためにノックしても、カールトン卿は忙しいことを理由に書斎の扉を開けてはくれなくなった。  そればかりではない。彼は寝室にさえも顔を出さなくなった。

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