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原因。
ⅡⅩⅢ
「セシルがまた働き者に戻ってしまったわ」
ヴィンセントがいる書斎に入って来るなり、イブリンは大きなため息をついた。
それは一週間以上も前のことだ。いつものように彼を可愛がっている時――大きな目に涙を潤ませ喘ぐセシルが可愛くて、眠る前の日課になっている、『それ』が、そもそもの原因だった。常ならばヴィンセントから与える口づけを、セシル自らが寄越したのだ。
何事かと彼の様子を伺えば、ルビーのように輝く目には自信と強固な感情が宿っていた。その感情の正体は知っている。自分への愛だ。それを垣間見たヴィンセントは、瞬く間に恐怖に襲われた。
もし、自分が彼を受け入れてしまったならばいったいどうなってしまうだろう。
遅かれ早かれ、セシルはヴィンセントの正体に気付く。その時のことを考えると、身体が冷たく凍っていく……。
彼とはこれ以上、距離を縮めてはならないと本能が言う。
だからヴィンセントはセシルとは殆ど顔を合わすことなく、こうして書斎に隠り、多忙なのを理由に、地下の住人に成り下がっていた。
どうやらイブリンは自分とセシルとの間に何があったのかを察したようだ。眠る時刻を過ぎているにもかかわらず、こうして書斎にまで顔を出したのは何よりの証拠だ。
時計の秒針が静かなその空間を埋めるように音を鳴らす。
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