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カールトン家一番の働き者。

 ⅡⅩⅣ 『セシルがまた働き者に戻ってしまった』  午前二時を過ぎ、誰しもが眠りに就くその頃、イブリンの言葉が気に掛かったヴィンセントは二階の、今となってはセシルの寝室へと向かった。ヴィンセントの手には一切の明かりがない。それでも彼はこの屋敷全体を見渡せるほどの並外れた視覚。どんな遠くの音でも聞き取ることのできる聴覚、気配を察知することができる感覚に触覚、匂いを嗅ぎ分ける鋭い嗅覚を持っていた。  セシルとここで鉢合わせをくらうのはなんとしてでも避けたかったヴィンセントは、ゆっくりとした足取りで階段を上り、周囲の気配を探る。  最奥の部屋に繋がるその扉のノブを回せば、扉は簡単に開いた。  セシルは鍵を掛けずに眠っている。それは自分が部屋を訪れるのを待っているからだろうか。  ヴィンセントに嫌われていると思い込んでいる彼は、健気にも主がこの部屋に戻ってくることを願っている。そう思うと、胸が引き裂かれるように痛み出す。  ドアノブを引き、室内に入れば、部屋の中は彼が思っていた以上に寒かった。暖炉の炎は消えていて、冬の寒さがこの寝室中を包み込んでいる。――ともすれば、考えられることはひとつ。彼は暖炉を使っていないということだ。  季節は十二月だ。この寒い中、暖炉も焚かずに眠るのは、いくらなんでも身体に堪える。眠っている彼の顔を覗き込めば、目尻から青白いその頬にかけて涙の跡が付いていた。彼の手を調べてみると、治りかけていた傷はぱっくり開き、(あかぎれ)がひどくなっている。ここへ来た当時の姿に戻りつつあった。

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