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柩。
ⅡⅩⅥ
気のせいだろうか。物音がする。ヴィンセントは朦朧とする意識の中で耳を傾けた。
詳しい時間は把握できないが、本能が目覚めていないところから察するに、時刻はまだ日中だろう。陽の光を嫌う彼の身体は鉛のように重い。指一本動かすことさえも困難だ。それでもいつもとは違う雰囲気に何かを感じたヴィンセントは手を伸ばし、視界を覆っている天井をずらした。
それから鉛のように重い身体を起こし、放って置けばすぐにでも下りてくる瞼をこじ開ける。
窓ひとつないそこは地下ということもあり、かなり暗い。常人ならば見渡すことが困難な状況にもかかわらず、闇に生きるヴィンセントにはそれも眩しいくらいだった。
物置小屋は相変わらずかび臭い。床には箒にちりとり。それから雑巾にバケツとホース。それらが乱雑に置かれている。いつもと変わらない景色は、けれども今日は普段よりずっと視界が明るい。たったひとつしかない出入り口を見れば、なぜか扉が開きっぱなしになっていた。
……おかしい。この部屋を出入りする人間は自分以外誰もいない筈だ。果たして自分が眠っている間に何が起きたのか。ヴィンセントは警戒しながら扉付近の様子を窺う。そこで呼吸が止まった。
地面に転がっているランタンの蝋燭は炎を揺らし、今にも消えてしまいそうな明かりで、かび臭い部屋を照らしていた。
「君は――」
ああ、なんということだろう。転がったランタンのすぐ側では赤い目の彼が自分を見下ろしているではないか。
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