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何故知っている?
彼はいっそう酷くなっている皹を起こしたその手で胸元を押さえ、細身の身体を震わせている。
薄気味悪いこの部屋にセシルが侵入した。そればかりか柩の中で眠っていた自分を目の当たりにした。
すっかり打ちのめされているヴィンセントは何と声を掛けていいのか判らず、ただ押し黙る。するとセシルの唇が小さく動いた。
ヴィンセントは視覚だけではなく聴覚にも優れている。だから彼が何を言っているのかもすぐに理解できた。
セシルの視線は足下に置かれたまま、ヴィンセントを見ようともしない。それは言うまでもなく、拒絶を意味していた。途端にヴィンセントの胸は引き裂かれるように痛む。
「なぜ、君がここにいる?」
ヴィンセントは乾いた唇を動かし、尋ねた。その声は幾分か掠れている。純真な彼が自分を拒絶する。それを想像するとヴィンセントの心は散り散りに乱れるばかりだ。
「貴方は……ヴァンパイアだったんですね」
ヴィンセントの問いに、しかしセシルは答えなかった。そしてふたたびセシルは尋ね返した。その声はか細く、震えていた。
「なぜ、それを知っている?」
いくら日中とはいえ、セシルは柩の中で横たわっている自分を見ただけだ。果たしてその光景だけでヴィンセントの正体が判るものだろうか。まるでセシルの質問はあらかじめヴィンセントが何者であるのかを知っているようだ。いったい彼はどこでその事実を知り得たのか。
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