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彼の正体。
ⅡⅩⅦ
(よりにもよって、今朝、出会ったばかりの女性に言われたことが真実だったなんて!!)
セシルは地下の階段を駆け上がり二階の寝室に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。赤い目からはひっきりなしに大粒の涙が零れ落ちる。
いくらあらぬ誤解を解くためとはいえ、なぜ自分は一度も踏み入れたことがなかった部屋に行ったのだろう。
地下に行ったのがそもそもの原因だ。
そして物置部屋に鍵が掛かっていなかったこともいけなかった。
すべては彼女が言ったとおりだった。物置小屋には黒い棺桶があり、中から彼が姿を現した。それでも何とか思い直し、彼がヴァンパイアではないことを祈った。
それなのに……。
カールトン卿はヴァンパイアだと自白した。
どんなに身分が低い相手でも対等に扱う彼。
醜い容姿をした自分にも優しく接してくれた彼。
それなのに……。
この醜い姿に変えたのは彼自身で、自分は彼の食料のためだけに婚姻を要求された存在だった。まさか孤児院に融資を施す彼がヴァンパイアだったなんて――。
本当は、否定してほしかった。ヴァンパイアなんて現実には有りもしない馬鹿げた発想だと笑い飛ばしてほしかった。
しかしそれは叶わず、彼は肯定した。
酷い。これはあまりにも残酷だ。
信じていたのに――彼だけは何があっても自分の味方だとそう思っていた。けれども彼こそが災いの元凶だったのだ。
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