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得体の知れない感情。
身も心もずたずたに引き裂かれたセシルは絶望に打ちひしがれる。ベッドの上で延々と泣いていると、部屋をノックする音が聞こえた。
セシルははっとして身体を起こした。
まだ陽は高い。自分の知識が正しければ、この時間帯はヴァンパイアが活動する時刻ではない。だとすれば、この屋敷で自分を除いて動けるのはイブリンただひとりだ。セシルは黙ったまま鼻を啜っていると、その人物が部屋に入ってきた。やはりイブリンだ。
視界は涙で遮られ、小柄なシルエットしか見えないが、それだけで十分判別はできた。
「セシル、いったいどうしたの?」
自分を気遣う優しい声音は、今に限っては恨めしいばかりだ。これもまた彼女の作戦だったなら大成功だ。セシルはすっかりイブリンを信用していたし、カールトン卿に至っては恋心さえも抱いたのだから……。
「貴方もご存知だったんですか」
「いったい何のこと?」
涙が喉に詰まって声が出しにくい。嗄れた声でセシルが尋ねると、彼女は首を傾げた。その仕草さえも白々しいと感じるほどに彼女の態度がセシルの心をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。
セシルの身体を気遣い、看病してくれたカールトン卿も――優しい言葉を掛け続けてくれたイブリンも――。どれもこれもみんなセシルをカールトン卿の食料にするための演技だったのだ……。
慈しみ、大切にされていると思ったのに、本当は、自分なんか愛されてなんていなかった。
酷い。天国から地獄に突き落とすなんて、これではあんまりだ。
自分の心は深い苛立ちと悲しみ。それらが混ざり合い、どす黒いもので染まっていく……。
これまでに抱いたことのない感情が自分の中で湧き上がってくるのを感じたセシルは、戸惑いを隠せなかった。
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