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絶望。
「……判って、います」
セシルは言うや否や、背を向け、去っていく。丸まった背中からは孤独が感じられる。今すぐその身体を包み込んでやりたい。抱きしめて、恐怖も孤独も何もかもから救い出してやりたい。
しかし、セシルをそうさせているのは自分だ。仮に自分が抱きしめたところで彼を余計に恐怖へ導くことは知っている。
誰よりも慈しみ、大切にしてやりたいと思う彼を踏みにじっているのは他でもない自分自身だ。
ヴィンセントは自分を呪い殺したい気分になった。きつく奥歯を噛みしめる。
遠ざかっていく足音と共に、セシルの後ろ姿がヴィンセントの視界から消えた。
「セシル……」
――ああ、なんということだろう。あれほどひた隠しにしていた事実が知られてしまった。
セシルはヴィンセントが悪魔のような姿に変えた事実を知った。同族にさせ、手を差し伸べて崖から突き落とす。彼はさぞや自分勝手な奴だと思っていることだろう。
できることなら、両親に先立たれた分以上に大切にしてやりたかった。この腕で優しく包み込み、怯えるものは何も無いと、そうやって愛してやりたかった。
しかし、人間の枠組みから外れた自分は所詮化け物にすぎない。その化け物が、他人に優しくすることなんてできるはずがない。
ヴィンセントはやるせなさに声を上げた。
彼は暗闇の中、頭を抱え、襲い来る絶望という重力に耐えきれず、蹲った。
獣が呻るような悲しみが宿った低い声が、地下室に木霊した。
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