ⅡⅩⅨ 　どのくらいの時間が経っただろう。顔を上げれば、窓の外はすっかり暗くなっていた。 　――どうやら自分は泣き疲れて眠っていたらしい。身体を起こせば、空腹感に襲われる。けれども今は何も食べる気分になれない。そのまま項垂れていると、誰かの足音が身近に聞こえ、顔を上げた。 　いったいいつの間にやって来たのだろう。そこにはカールトン卿が立っていた。 「何をしにいらっしゃったんですか」 　すっかり打ちひしがれているセシルはカールトン卿を突き放すような口調になった。けれども彼は返事をしない。 　そこにはいつもの微笑はなく、薄い唇は引き結ばれている。やはり、あの優しい笑みも自分をこの世界に引き摺り込むためだけのものだったのだ。自分は食料として彼に必要とされていただけで、それ以外は何も求められていなかった。 　自分の立場というものを思い知れば思い知るほど、セシルの心はずたずたに砕かれる。 「飲みなさい」 　彼の手から真っ赤に染まった小瓶を差し出される。 　すっかり見慣れたそれはあの女性が言うところの、自分をヴァンパイアに変えるための薬だろう。 　自分は彼にとって、腹を満たすためだけの存在。つまり『食材』なのだ――。 　セシルの胸は引き裂かれんばかりの苦痛に見舞われた。 「いやっ！　もういやだ！　貴方はどうして僕をヴァンパイアにしたの？　そんなに食料が欲しかったの？」