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抗えないこころ。
「何を言って……」
「もういやだ! 僕にかまわないでっ!!」
これでは自分をいじめていたビオラたちの方がずっとましだ。カールトン卿だけは、奴隷としてではなく同等に見てくれていると思っていた。
彼に優しい言葉のひとつでも掛けられて嬉しかった。――それなのに彼は自分を手ひどく扱った。手を差し伸べ、自分を卑下しなくてもいいと言ってくれたその姿はもうない。優しくしておいて突き放すなんて、誰よりも酷い仕打ちだ。
……いらない。
こんなに辛い気持ちにさせるのなら、優しい言葉も何もいらない。
セシルは小瓶を差し出す彼の手ごと払い除けた。乾いた音が部屋中に木霊する。
瞼が熱い。
また泣きそうだ。
セシルは懸命に嗚咽を漏らさないよう、唇を引き結んだ。目尻を上げ、目の前の彼を睨む。
カールトン卿は地面に転がった小瓶を拾い上げると、中に入っていた赤い液体を口に含んだ。そうかと思えばセシルの顎を捕らえ、上を向かせた。薄いその唇がセシルの口を塞ぐ。
彼の口にあった液体が口内に入ってくる。無理矢理嚥下させられた。けれどもそれだけでは終わらない。彼の胸板を叩いてもカールトン卿は離れようとはせず、セシルの唇を割り開いた。彼の舌が我が物顔でセシルの口内を蹂躙する。
「……ふ」
どんなに拒んでいても彼からの口づけは絶大だ。一度口づけを与えられれば、怒りで冷たくなっている身体は呼応し、熱を帯びる。交わる舌は痺れを伴わせ、セシルの下肢に熱が灯る。
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