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慕情。

 気が付けば、セシルは彼の背に腕を回し、自らも彼の唇を貪っていた。 「ん、っふ、んうぅ……」  彼が欲しいと身体が欲求する。セシルは彼のたくましい肢体に、ぴったりと貼り付けるように自らの身体を寄せた。  熱を持ちはじめるセシルの一物を自ら彼の下肢に押し当てたその瞬間だった。カールトン卿はセシルから身を引いた。彼から始まった行為は、けれども彼によって終わる。  互いの唇は唾液の細い糸で結ばれ、余韻を残し、消えていく……。 「君はぼくを拒めない」  そう言った彼の表情からは何も読み取れない。あれほどセシルを魅了していたサファイアの瞳は光が見えなかった。彼は背を向け、簡単に寝室を去る。 「――っつ!」  どんなにカールトン卿を拒んでも、この慕情は消せやしない。彼がたとえヴァンパイアで、自分を醜い姿に変えた張本人であっても、抱いてしまった慕情は変わらない。彼を嫌うには、事はもう既に遅かったのだ。  瞼が熱い。カールトン卿を想いすぎた胸が苦しい。呼吸がままならない。 「……っひ……うう」  一粒、二粒。  セシルの赤い目から涙が零れ落ちる。 「……あ、ああ……」  涙と嗚咽が止まらない。  それはセシルが自分の恋心をまざまざと実感させられた出来事だった。

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