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思い直せば……。
ⅢⅩ
夜が明け、ほんの少し冷静になったセシルの頭は、やはりカールトン卿のことでいっぱいだった。
どこにいても、何をしていても、考えてしまうのは彼のことばかりだ。こうして思い知らされるのは、たとえどんなに酷い目に遭わされても慕情は消えないということだ。
(だけど、何かがおかしい)
セシルの脳裏にふと疑問が浮かび上がった。
果たして彼は本当に食料として扱うためだけを目的に、自分を許婚にしたのだろうか。だって彼は血液しか摂取しないとそう言った。けれども実際はどうだっただろう。
(――ああ、そうだ)
彼はセシルが作った料理を食べてくれた。いつのことだったか。不味そうな顔をしていたけれど、それでも美味しいとそう言って、カールトン卿はセシルが作ったリゾットのすべてを平らげてくれたではないか。
自分の血液にしか興味がないのなら、わざわざセシルの料理を食べるだろうか。それに彼がセシルの血を抜き取った形跡はない。むしろ薬と称して自分の血液をセシルに与えていた。それはひとえに、身体の弱い自分を慮ってのことではないのか。
それにセシルがまだハーキュリーズ家に身を置き、ビオラやロゼッタにうんと扱き使われていたあの頃――たとえ上辺だけの行為だったとしても、カールトン卿から届けられる手紙にどれだけ生きる勇気と希望を与えられたことか。
あの手紙がなければ、きっとセシルは今、生きていない。とてもではないが、彼がいなければビオラやロゼッタからの酷い仕打ちに耐えることはできなかった。
それを考えた時、セシルの胸が締め付けられた。
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