169 / 241

ひとつの疑問。

「ああ、ヴィンセント……」  そうだ。彼はいつだって自分を労りの目で見てくれていたではないか。あれらすべてが演技だったなんて考えられない。彼がたとえヴァンパイアでも、本質の部分は自分たち人間となんら変わらないのではないか。カールトン卿はイブリンと同じで思いやりに溢れた優しい男性だ。  そこでセシルの頭にあらたな疑問が浮かび上がった。その疑問というのは、『なぜイブリンはヴァンパイアではないのか』ということだ。  彼女は毎朝規則正しく目覚め、深夜は眠りに入る。食事だって一般的なもので、ヴァンパイアのものとは違う。それはセシル本人が食事の手伝いをしていたからよく判る。  彼女は一般の人間そのものの生活を送っていた。だとするならば、カールトン卿はどうやってヴァンパイアになったのか。  もしかして彼の消えた父親と何か関係があるのだろうか。 (――何か、とてつもなく大事なことを忘れている気がする)  そもそも、セシルがカールトン卿と出会ったきっかけは何だったのだろうか。  思い出したのは、幼い頃に両親がカールトン卿と交わしたという約束だ。セシルが五歳の時、自分はたしかに大病を患い、生死を彷徨った。とても苦しかったのを、うっすらとだが記憶している。  もし、カールトン卿の話が間違っていなければ、彼は自分を助けるためにヴァンパイアへと変え、許婚にしたのではないか。  それに何より、孤児ならセシル以外にもたくさんいる。わざわざ同性を相手に選ばなくともいいはずだ。

ともだちにシェアしよう!